戦記
《二》
志士は上段に構えた。
気合いを放ち、降り下ろす。
山崎の小太刀が受け止めた。
鍔と鍔が耳障りな音を立てる。
山崎は奥歯を噛み締めた。
体格は、志士の方が上。
このような鍔迫り合いにおいては、力の強い方が有利だということは、言うまでもない。
志士が、笑った。
押しきろうと、刀を持つ手に力をかけてくる。
山崎は左手を柄から放した。
志士の刃が迫ってくる。
――殺(と)った!!――
志士は口端を吊り上げた。
だが。
ドン、と左胸を衝撃が貫いた。
胸に刃物が突き刺さっている。
山崎は前のめりに倒れてくる志士の体を受け止め、静かに地面に横たえた。
「へぇー。ここに繋がってたんだ。面白いな」
抜け穴の方から声が聞こえ、山崎は振り返った。
「沖田さん」
色素の薄い髪の色をした青年が、山崎の呼び掛けに応え、笑った。
彼こそが、新撰組一の実力者。
一番隊組長、沖田総司。
「仕留めちゃったんだね。せっかく追ってきたのに。労力が無駄になっちゃったな」
山崎は小さな苦笑を洩らした。
沖田の羽織には浪士のものと思われる返り血が付着しているが、沖田の声はついさっき人を斬ってきたとは思えないほど明るい。
これが「沖田総司」が恐れられる所以だろう。
「二階(うえ)はどうなりました?」
「もう終わったよ。浪士一名捕縛、残りは始末。こっちは数人が怪我したけど、死人は出てない」
山崎はほっと息をついた。
同志を失わずに済んでよかった。
沖田は伸びをした。
「今日は、終わったね」
『今日は』
沖田の言葉に、山崎の目が細められる。
この時代の荒波が過ぎ去るまで、完全な終わりは――ない。
「……そうですね」
――まだまだ、血なまぐさい夜は続く。
終
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