間接的キス
先生は、珈琲が好きだ。
基本は、ブラックばかり飲んでいるのだが、たまに甘い匂いのする珈琲も飲んでいる。
とはいっても、珈琲メーカーを使っているわけではなく、全てインスタントで、その日の気分でいろんな香りを、試しているらしい。
そんな先生は、普段から近付いただけで、匂いが分かってしまうくらい、良い匂いがしている。
話しはさかのぼり、前日の休み時間、いつもみたいに元親と、隣のクラスからやってきた慶次と、三人でご飯を食べていると、甘い匂いが漂ってきた。
匂いのする方向へ視線を向けると、慶次が紙パックの紅茶を飲んでいて、どうやら漂う匂いは、これからするらしい。
「おいおい、珍しいもん飲んでんな。」
元親も匂いに気付いたのか、慶次を笑いながら指摘する。
紙パックにストローを挿して、紅茶を飲んでいた慶次が、侵害だとばかりに、眉間に皺を寄せた。
「なんだよ、別に何飲んでもいいだろ。」
ストローから口を離して、拗ねたように尖らせる。
それよりも慶次の『まつ姉ちゃん特製重箱弁当』に紅茶は合うのだろうか。
本人が構わないのなら、全く問題はないのだが、中身は完全に日本食使用なのだ。
「んなことより、何飲んでんだ。」
拗ねた慶次など気に止めず、元親が飲み物について尋ねた。
「ん?ちょっと飲んでみるかい。」
手に持っていた紙パックを、元親に手渡すとストローに口をつけた。
「うわっ、なんだこりゃ甘っ!匂いが甘い!」
元親の第一声に、慶次が笑う。
どうやら、鼻に抜ける匂いが、甘いらしい。
「そんな甘くないでしょ、このメイプルティー。」
いやいや、名前からしてもう甘い。
女子が飲むような飲み物を、この人一倍でかい男が飲んでいるのを見ると、何故か笑えてくる。
しかし、逆にそんなところが、女友達が増える理由なのだろう。
ただ友達以上には、ならないんだろうが。
「お前、そんなの好きだよな…。」
「ご飯食べながら、炭酸飲んでるやつに言われたかないね。」
元親は、ご飯を食べるとき、炭酸類を飲むことが多い。
シュワシュワするのが、堪らないのだそうだ。
お菓子とかなら分からなくないが、せめてご飯のときくらいは、お茶とかにしとけば良いのにとは思う。
「政宗も、一口飲んでみるかい?」
無言で会話を聞いていたら、慶次が紙パックを差し出してきた。
今は、口の中が甘い物を求めていないので、丁重にお断りした。
そんな何気ない会話をしながら、政宗の頭に浮かんでいたのは、小十郎だった。
珈琲で、甘い物を飲んでいたりするので、もしかしたら、紅茶の甘い類いも好きなのかもしれない。
慶次に、どこで買ったのかを尋ねると、登校中にコンビニで買って来たのだそうだ。
今日の放課後は、元親たちと遊ぶ約束があるので、明日の登校中にこっそり買って、先生と一緒に食べるときに、渡そうと考えた。
[次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!