お題SS小説 【天の邪鬼〜暦ちゃんコラボ小説〜】 * ―暦ちゃんコラボ小説(※設定捏造注意)― 【天の邪鬼】 〜藤島水無月(高1)×武田弥生(中3)〜 「なー、藤島ー。お前、中等部の武田弥生と幼なじみなんだろ?」 「は?」 四時間目も終わり、購買で買った焼きそばを啜っていたら不意にクラスの新城が近づいてきて聞かれた。 「ふぉれが?(それが)」 「おい、汚ねぇな、食べてからでいいよ。」 新城が焼きそばを啜る俺に向かって苦笑いをするのでコーラの蓋を空けて一気に焼きそばとコーラを流し込む。 「で、なに?弥生がどうした?」 「その武田弥生ってさ、彼氏とかいんの?」 新城が俺の前の席にこっちを向く形で体を前のめりにして座る。どうした、こいつ。 「は?知らね。」 「なんだよ、幼なじみなんだろ、それぐらい知っとけよー」 「弥生とは犬猿の仲だからな。付き合ってるやつがいても俺には教えないだろうな。で、それがどうしたの?」 また焼きそばを啜ると、新城の頭に大きな手を乗せてがしがしと左右に髪をぐしゃぐしゃにした古賀が「新城は、その武田弥生が気になってんだよ。」と笑った。 「は?お前ら頭おかしいの?」 きょとんとした顔で言う俺を新城も古賀もきょとんとした表情でこちらをみる。 「いや、頭おかしいの、お前じゃね?」 「なんで?」 「最近、中等部の武田弥生って人気あるんだぜ?」 「中等部ってガキじゃん。」 「いや、俺らと一歳しか違わないし」 「いや、一歳違えばでかくない?お前ら知らないだろうけど、あいつ、相当わがままだよ、見た目だって何か際立ったもの…何かあったっけ?」 「藤島ー。お前なにも見えてないんだな」 呆れたように新城が俺の顔をみる。 「小さくて髪も綺麗で色白で目もぱっちりで人形みたいに可愛いじゃん」 「は、うそだろ、見た目で気になってんの?まじ趣味悪いよ、お前たち」 「いや。お前に言われたくないわ。というか、その焼きそばとコーラの組み合わせ、考え直したほうがいいよ、見てるこっちが胃が痛くなる。」 「うるせ」 コーラの入ったペットボトルで軽く新城を殴ったあと、コーラを振ってしまった自分に舌打ちをする。 「藤島が何も感じてないならそれはそれでこっちとしてはライバル一人減ってラッキーだから、まあいいわ、」 そういうと新城が俺のコーラをとって俺の頭を軽く叩き返したあと自分の席にかえっていった。それ、しばらく飲めねぇじゃん、二度目の舌打ちをする。 授業が早めに終わり、休み時間に入ったので窓に視線を向けると、新城たちが窓の方を見つめて何か話をしている。気になって、近づいて、何してんの?と聞くと、新城たちが見ていた方向に視線をやる。中等部の女子が高跳びの練習をしている。 「中等部が体育らしくてさ、あの中でも一際、武田弥生って、目立つよな。外の体育なのに焼けずに真っ白」 「…なに、お前たち、まだそんなこと言ってんの?」 俺が呆れた顔で新城たちを見つめると胸の前に手をあてて、 「あいつ、背も低いし胸もないよ?ぺちゃんこ。女にも見えないでしょ?」 「おい、藤島。」 「あ?お前たち、弥生に幻想抱きすぎだからな。この前だってあいつ、俺にあった瞬間、蛙を踏みました、みたいな顔して、俺の悪口しか言ってなかったんだぜ?可愛いこと一つも言わないよ?てか、笑わねぇし、いつも膨れっ面で可愛いと思えるとこがひとつも…「おい、藤島。」 新城が少し青ざめた顔で俺を見つめて窓を指差す。 差している方向に顔を向けると中等部の女子の中の一人がこっちをみている。視力はあまり良い方ではないけれど、確実にこっちを見ているのは弥生だ。おまけにめちゃくちゃこちらを睨んでいるようだ。 「おい、俺達が見てるのバレたんかな?」 新城がばつの悪そうな顔をする。いや、今、一番ばつが悪いのは、明らかに俺の方だ。弥生は俺を指差して睨んでいる。おまけに口をぱくぱくさせて何か訴えている…ポケットから眼鏡を出して掛けて見てみると弥生はどうやら俺に「シネ」と言っているようだ。溜め息を一度して窓を静かに閉める。 「新城」 「え、」 「なんか、すまん。弥生を怒らせたっぽいわ。今度会ったときに新城のことはフォロー入れとくから」 「武田弥生、こっちみてたけど、やっぱ怒ってた?」 「かなり」 「まじか」 「しかも結構重症」 「でもさ」 「あ?」 「怒ってる顔も可愛かったな」 「…新城、」 「ん?」 「お前はもっと重症だわ」 放課後、担任に雑用を任されて中等部の棟にある資料室に向かう。高等部と中等部を繋ぐ外廊下を歩いていると向こうから弥生が歩いてきた。あちらもどうやら一人で高等部の方に用があるらしい。俺と目が合うと睨みをきかせて、こちらにドシドシと近づいてくる。 「水無月…!」 「なんだよ、ゴジラ。」 「は?ゴジラってなに?!」 弥生がヒステリーのような声を出す。相当お怒りのよう… 「…今のお前ならビルでも学校でも潰せる勢い」 「本当に水無月ってかわいくない。」 「お前に可愛い、言われても嬉しくないし」 「本当にうざ。いっぺん死んでこい」 「女の子が汚い言葉を使うんじゃねえよ」 「なによ。私のこと女の子なんて思ってくれたこと、一度だってあった?」 「…ないな。あ、そういえば、俺のクラスにお前のこと、女扱いしてる奴がいるよ」 「なにそれ、だれそれ」 「新城ってやつ。お前のこと、盲目的に見てんだよ。新城にとってお前はゴジラじゃなく人形みたいに可愛いんだって、恋は盲目っていうけど、弥生に盲目的になってちゃ、新城の将来が俺は心配だ」 「…」 「あ、でも人形って日本人形だよな、きっと。」 「…本当に水無月って人を喜ばすこと一言も言えないよね。そういうとこ、本当に直した方がいいよ、…でも新城先輩は、私も知ってる。たまにすれ違うと挨拶してくれるから雰囲気とかかんちゃんに似てるなぁって思ってた。」 「は?…かんな?」 「うん」 「似てねぇだろ」 「うるさいな、雰囲気が似てるの」 「あ、そう。まあどうでもいいけど、それは良かったな新城」 「なんで?」 「お前、かんなのこと大好きじゃん」 「それの何が良かったの?」 「新城の盲目的な恋にも少しは望みがあるってことだろ」 「…」 「なんだよ」 「水無月って本当に嫌い」 「あ?」 弥生が真っ赤な顔でこちらを睨む。確かに新城の言ってたとおり、弥生は色白い。でも、いつも俺を睨む時は林檎みたいに顔を真っ赤にさせて半月みたいな目で睨んでくる。こんな時は必ず手が出てる、凶暴女。 「なにもわかってない」 そう言うと弥生が右手をぐーにして俺の左肩を殴る。殴る力に容赦がない。 「いって、…なんだよ」 「もういいよ。本当にかんちゃんと水無月は双子なのに真逆みたいな性格なんだろう。」 「なにがだよ」 「なにもわかってない」 「だから何がだって」 「かんちゃんに聞け、馬鹿。あ、やっぱり一人で悩んではげろチビ。」 「お前、上級生に向かって…」 「水無月を上級生だなんて思ったことなんかないもん」 「…むかつく」 「私の方がむかついてる、!」 俺が言うと弥生はもっと強い口調で返した。いつもこれだ。本当に会えば喧嘩。話しても何も理解できない。弥生の思ってることなんて理解できる奴なんかいねぇよ。 弥生と別れたあと、かんなに遭遇したので一緒に帰った。今日会ったことを全て話したらかんなは笑った。 「みな、本当にお前は天の邪鬼だなあ」 「は、なにが?」 「色々、裏目に出ちゃって何もうまくいかないタイプ。そこが良いとこでもあるけどね」 「悟ってんな」 「悟るよ、みなの双子を務めてれば」 「なんだそれ」 わけ分かんね、と呟くとかんなは笑って俺を指差した。 「みなもたまには投げ出さずに悩め悩め。」 「あ?」 「悩むのは学生の性分」 「お前も学生だろ」 「俺はいいの」 「なんだそれ」 「みなはすぐ投げ出すじゃん」 「俺のどこが投げ出すんだよ」 「そんなとこ」 かんなは知ってるような口ぶりなのに笑うだけで何も教えてはくれないので俺は埒があかないと舌打ちをして右足に当たった小石を蹴った。 次の日、俺は選択授業で化学室のある廊下を歩いていた。向かいから大きな世界地図を抱えた弥生が歩いてきた。俺と目があった気がして「おい」と呼ぼうとしたとき後ろから、「おはよう」と新城の声が聞こえた。俺が弥生の顔を見ると、視線が俺ではなく俺の後ろにいる新城の方に向いていて、 「新城先輩、おはようございます」 と見たことのない笑顔で弥生が笑いかけていた。 「…」 授業が始まり教師が黒板に化学記号をすらすらとかき始めている時も、実験について説明を始めたときも、先ほどの弥生の笑顔が頭から離れず授業が頭に入ってこない。…なんだ、あれ。胃に不快さを感じ、なんだか苛々して舌打ちをする。 その後もクラスで新城たちが弥生の話をしている話声が耳に入ってくるようになった。気にしないようにしているつもりでも、新城たちが頻繁に弥生の話をしているせいなのか、嫌でも耳に入ってきてしまう。胃の不快感と苛々は増すばかりで、舌打ちの数も増えた。 「新城」 「どうした?」 「お前、まだ弥生に興味あんの?」 トイレでたまたま新城と一緒になったとき、隣の新城に声を掛けた。 「なにが?」 新城がこちらを見ずに前を向いたまま聞き返す。声を聞くだけで不快な気持になる。 「最近弥生の話、よくしてんじゃん」 「…」 新城は黙ったままなので俺は続ける。 「あれさ、まじうざいから、弥生のこと気になるなら早く言ってくっついてくんないかな」 「あ?」 「…なんか、自分の妹みたいな奴を恋愛感情で見てるやつの話聞こえてくんの、正直きしょいんだわ。気になるならさっさとくっついてくれよまじで」 「なあ」 「あ?」 「…お前、そんなに武田弥生のこと好きだったの?」 「…あ?」 的外れのことを言う新城に思わず拍子ぬけな声が出て新城の方を向く。新城はこっちを見つめていた。そうして一度溜め息をつくと前に顔を向きなおす。 「お前…、相当武田弥生のことが好きなんだな」 「あ?何言ってんだ、好きなのはお前だろ」 「いや、俺は気にはなってるけどさ。…藤島も相当だよな」 「いやいやいや、意味わかんねぇから。」 「まじか」 「なにが」 「お前、自分の気持ちにも気付いてないんだ?」 「あ?」 「鈍感。」 「ああ?」 「早く気付いてやれよ」 そういうと新城は手を洗って、手に付いた水をひらひらさせて落としながらトイレを出ていく。 「なにがだよ」 言い逃げかよ、と舌打ちをして俺も自分の手を洗う。石鹸に手を伸ばそうとしたら石鹸がもうなかったことに気づき、周りの蛇口を見ても石鹸がなくてもう一度舌打ちをした。 胃の不快さと苛々が増し、舌打ちも増えてきたのでしばらく会っていない弥生に会いに行った。もう弥生とはあれから1週間以上会ってはいない。毎日のようにどこかで会う程近い存在だからか、1週間と言えどこれは大分会っていない方。まあ、会っても喧嘩しかしないのだけれど。そうして今日会いに行く目的はただひとつ。この苛々を弥生にぶつける為だ。むかつく原因の源を、滅す。 中等部のある校舎まで足早に向かい、弥生のクラスまで向かう。貴重な休み時間の10分をお前の為につかってやってんだ、感謝しろ阿呆。頭の中で理不尽に弥生を罵倒する。 弥生のクラスにつくと教室に弥生はいなかった。せっかく高等部から会いに来てやったというのにあいつはどこに行ってんだ…理不尽な怒りが込上げてきて舌打ちをもう一度する。 「お、みな〜」 後ろを振り返るとかんなが笑顔で向かってくる。隣には1週間振りの弥生がいる。 「あれ、水無月だ」 「…」 ずっと口をきいていなかったはずなのに、そんなの気にしないとでもいうような平然とした口調で弥生が名前を呼ぶ。もう一度舌打ち。いらいらする、本当にむかつく女。 「弥生がさ、世界史の資料集貸してほしいって俺のとこきたんだよ〜高校の資料集に必要なページがあるとかでさ次の授業で使うんだってさ。ほら、俺の方がみなより教室近いし…「かんな」 「ん?」 「その資料集、弥生に貸すなよ」 「は?」 俺の言葉に弥生が明らかな不快さを表情に表す。 「だから、次の授業で弥生が使うんだって…「いいから」」 「えー」 かんなは困った声を出す。弥生が俺を睨む。 「なんでよ。次の授業で使うんだから。水無月に関係ないじゃん」 「関係ねぇよ。」 「じゃあ」 「遠くても俺に借りにこいよ」 「は?」 「かんなに借りんな馬鹿女」 「はあ?」 「ほら、俺の教室までこいよ、貸してやるから。それはかんなに返せ」 俺が世界史の資料集を弥生から奪い、かんなの胸に押しつける。 「もう、一生そういうの貸すなよ、かんな」 「へ?」 「お前はこい」 弥生の左腕を無理やりつかんで高等部のある教室に向かう。 「ちょっと、水無月」 「…」 「ねえ、ちょっと」 しばらくして引っ張ってきた弥生の腕をはなす。 「今、水無月の教室に行ったってもう授業に間に合わない!」 「うん」 「もう、今からかんちゃんにもう一度借りにいかなきゃ、まだ近くにかんちゃんいるかも」 戻ろうとする弥生の腕をもう一度掴もうとして止める。その代わりに弥生の二つ結びにしている長い髪を掴む。後ろに引っ張られる形で弥生が俺の身体に背中からぶつかる。 「いたいから、今日の水無月変だよ」 「うん」 「ねえ、聞いてる?」 「ああ」 「じゃあ、髪放して。もうあと1分しかない。チャイム鳴っちゃうから」 「やだ」 「はあ?」 「俺、まだお前に言いたいこと沢山あんだよ、今日言うって決めてたんだ。苛々してむかつくんだよ、全部お前のせいで」 「…」 「もう、かんなにも会えねえし、ほら、チャイム」 俺が顔を上に向けると無惨にも次の授業が始まるチャイムが鳴っている。 「もう、手遅れ」 「…」 「社会史なんて俺が一年前にやってるから教えてやるよ、さぼろうぜ」 「…自己中」 「うるせ」 渋々という顔で弥生が俺の背中についてくる。授業なんてさぼったことないんだろう。 「保健室に行ってました、って言えば世界史の脂オヤジは何もいわねぇよ」 「なんで」 「女子の緒事情ってやつ?」 「…最低」 意味が分かったようで弥生が悪態をつく。 公にさぼるわけにもいかない為、ビオトープのある中庭まで向かう。時期も時期だからか名前の知らないような花が沢山咲いている。俺が池を覗き込みながらしゃがむ。弥生もその横に同じようにしゃがみこむ。ビオトープは濁っていてアメンボがすいすいと濁った水の上を滑る。 「…」 「話ってなに?」 「…」 「ねえ」 「…」 「さぼらせたんだから、ちゃんと答えてよ」 「なあ」 「うん」 「最近何してた?」 「へ?学校行ってたよ。」 「そんなの知ってる。休日。」 「休日?」 「よく家にも来んのに来なかったじゃん」 「…」 「なんで?」 「…買い物行ってた」 「誰と?…新城と?」 「…は?」 弥生がこっちに顔を向ける。俺はすいすい泳ぐアメンボの後ろから人差し指を入れて波紋を作る。アメンボは波紋をすいと避けてそのまますいすい滑りだす。 「なんで、新城先輩と?」 「最近仲良いじゃん。この前も一緒に笑ってたし」 「そりゃあ、先輩だし、会えば挨拶くらいするじゃん。」 「そこで笑う必要なくない?」 「だって、笑いかけない理由もない」 「俺だってお前より先輩だよ、」 「水無月はチビだし先輩って気がしない。小さいころから一緒だったし」 「俺の前ではあんな笑わねえ…」 「笑ったらきもいってすぐ言うじゃん。会えばひどいことしか言わないし、笑いたくても笑えない」 「…」 「笑ってほしいなら、面白いこと言ってみてよ」 「むり、かんなじゃないし」 「…」 会話が途切れる。また指を濁った水に入れて波紋を作る。水の中はぬるりと生暖かい、アメンボは気付いたら姿を消していた。 「じゃあ、」 「…」 「面白いこと言えないなら、優しいこといって」 「あ?」 俺が弥生の方を見ると弥生はこっちを見たままだった。確かに間近で見ると真っ白だ。真っ白で二つ結びがまるでうさぎのようだ。昔よく弥生が白いうさぎのぬいぐるみを抱きかかえて我が家に来ていたことがあったが、あのぬいぐるみに似ている。そういえば、あれ、かんなと俺が弥生の誕生日に有り金叩いて弥生に似ているからと買ったぬいぐるみだったな。 「水無月は汚い言葉しか言えない。人を怒らせる言葉しか言わない。たまには、人を喜ばすような優しい言葉も言えるようにならないと将来後悔することに…「多分、お前がすきだ…」」 「…は?」 「…あ?」 弥生と目が合う。事態が呑み込めていない。 「え、なに、ごめん、どういうこと?」 「…」 「え、ごめん、私今何か聞き間違えたのかな…「今、相当重症なほど、弥生がかわいく見えてる」」 弥生がきょとんとした顔をする。 「え、なにが?」 「…おまえが」 「…ええ?」 全く状況が呑み込めていないらしい、いや、この状況が呑み込めていないのは俺もだ。 前に新城に弥生を好きになるなんて頭がおかしいと言ったことがあるが、今は自分に言ってやりたい。でも現実、今の俺は目の前の弥生を兄妹のようには見ていない…俺は相当いかれてしまったらしい。 「最近いらいらする、お前を見ると」 「…」 「誰かに笑ってんのも、何か頼ってんのも、なんかむかつく」 「…」 「もう他の男に頼んな、あと、できれば他の奴には笑うな」 「…笑うなとか無理だし、…束縛男」 「うるせ、」 「…私達、付き合うの?」 「あ?」 「水無月は私と付き合いたいの?」 「…しらね」 「なんだそれ、」 弥生が俺に向かって今日初めて笑う。立ち上がると足が痺れよろけそうになる、今日はすべてが決まらない。よろけかけた俺を弥生が左腕を掴んで支えた。 「…なさけな」 見透かしたように弥生が悪態をつく。しかしそこまで不快じゃない。気づけば舌打ちもしていない。 「…うるせぇな」 「水無月」 「あ?」 「今日、家にいくから、世界史教えてね」 「…へい」 「あ、かんちゃんお帰り〜」 「あれー、弥生、今日はうちに来たんだ?」 「水無月がどうしても来いってうるさくて…」 「ふーん」 かんなが嬉しそうに冷蔵庫から麦茶を出して口をつけないように浮かせて直飲みをする。 「…おい、お前ら。俺はそんなこといってねえからな。それに、かんな。お前直飲みはよせ。コップに入れて飲め、汚ねえ」 「…弥生〜」 「なにー?」 「口うるさい、みなと居ると、将来弥生も苦労しそうだなぁ」 「…ねー」 「…お前らうるせえ」 またいつもの日常が戻ろうとしている。ただ前と少し違うのは、弥生が前よりも俺に向かって笑うことが多くなったということ。…まあ、悪い気はしない。 END(2015.04.26) +前* 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