向日葵の君 かわいい人1 特に変わり映えのない毎日が続き、気が付けば季節は秋に変わった。 土方が屯所にいる日は、たいてい茜にお茶を頼んで休憩を取る。 そして、それに茜も少しの間付き合うことが、日課のようになっていた。 少々不自然に部屋を出入りしている気がしないでもないが、沖田はあれ以来何も話しかけてこないし、それ以外の隊士も何も言ってはこない。 どうみても茜が土方のお気に入りであることは、疑いようもない事実。 だが隊士は皆、土方が茜のことを妹扱い、娘扱いしているものだと受け止め、沖田以外は誰も二人を気にしてはいないのだ。 「おい」 「あっ土方さん。お疲れ様です」 廊下を歩いていた茜は、いつものように後ろから土方に呼び止められた。 「今、時間あるか?」 「はい……大丈夫ですけど」 「そうか。じゃあ、お茶を頼む。さっきからずっとお前も休んでないだろ? 休憩でもしろ。二人分な」 「はい。わかりました」 返事をしながら茜は無意識に周りの様子を窺ってしまう。 別に自分が押しかけているわけではなく、土方がついでに誘ってくれるだけなのだが、頭のどこかで沖田の言葉が引っ掛かっているのだ。 「お待たせしました」 「ああ、ありがとな」 土方の前に一つ、向かい側にもう一つ。 持ってきたお茶を置き、茜は自分も腰を下ろした。 「今日も随分忙しく動き回ってるな」 片手で茜にお茶を勧めながら土方は口を開いた。 「そうですね。要領が悪いからあっち行ったりこっち行ったり、バタバタしちゃうんです」 「そうか。まぁ少しの間でも休んでいけよ」 土方はそう言って気安く笑った。 普段は険しい顔の土方だが、二人でいると優しい表情を見せてくれる。 それは周りが言うように、妹や娘のように思われているだけなんだろうか。 ふと茜は考えてみた。 沖田は土方が自分に執心してると言っていたが、そんなわけはない。 皆、私のことを子供扱いし、土方さんとはどっからどう見ても釣り合わない外見だし。 「どうかしたか?」 「いえ、何にも」 おそらく初めて会った時の印象が強くて、保護者的な目線で心配してくれているのだろう。 きっとそうだ。 沖田に言われたことを思い出してしまい、二人きりという状況を急に意識し始めた茜は、落ち着かない仕草で気持ちを静めようとする。 不自然にキョロキョロしながらせわしなく髪をかきあげる茜に、土方は煙草を取り出しながら少し笑みを浮かべ、探るような視線を送ってきた。 「何にもないようには見えねェけどな」 「本当に何もないですから!」 何とかごまかそうとする余り思わず語尾が強くなってしまい、土方は少し驚いたように茜を見た。 「あっすみません」 「……」 慌てて茜は謝ったが、土方はチラっと見ただけで何も言わず、煙草をふかす表情は不機嫌そのもの。 思いは隠さなきゃならない。 だからといって土方を怒らせたら何の意味もないのに。 「あの……土方さん……」 恐る恐る声をかける茜の瞳が、不安げに揺れた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |