向日葵の君
初めての人
こぼれた涙を優しく拭い去る指先からは微かに煙草の匂い。
普段の土方は茜から見ても照れ屋だなと感じることが多いが、さっきまでの土方は当たり前だが茜が思っていたよりずっとずっと大人で、そしてとても優しかった。
心にかかっていた靄はあまりの衝撃に全て吹き飛んで、その腕に包まれていると新しい自分に生まれ変わったようにさえ思える。
どんな恋を重ねてきたのかなんて、きっと今二人がこうなるために決められていた順番にすぎない。
人は複雑な糸で絡み合っているようで、全ては運命に沿って流れていくだけなのかも。
そんなふうに思えてた。
もうこれ以上考えてもしょうがない。
ただ、今この瞬間。
ほんの少しでも土方の胸にその人が浮かんだりするのなら、そんな悲しいことはないなと、茜はぼんやりと思った。
「何考えてる?」
暗がりの中でも既に目は慣れていて、ちゃんとお互いの表情はわかる。
何やらぼんやりとしている茜に、土方が尋ねる。
また突拍子もない答えが返ってくることを、ひそかに期待しながら……。
「土方さんで良かったなって」
「土方さん『で』って何だよ」
「初めて好きになった人が土方さんで良かったって意味です」
「初めての相手は?」
ボソボソっと早口で土方が聞く。
「…土方さんで良かったです」
真っ赤になりながら答える茜は、枕にしている左腕にしがみつき顔を隠した。
うっすらと浮かぶ天井を見上げながら土方は、緩む頬を空いてる手でひと撫でする。
こんな穏やかな気持ちになれるものなんだと、不思議な気持ちになる。
これから先、二人がどうなっていくのかはわからないが、今の自分なら何とかやっていけるような、そんな甘い未来絵図が浮かんでくる。
今の俺ならば。
今の俺と茜となら。
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