向日葵の君
桜吹雪の下で2
「寂しいって何がだ?」
「別にたいした意味なんてないですけど、あと十日もすればこの景色が夢みたいに消えるでしょう? それが寂しいなって思ったんです」
なんだ、そんなことかよと、少し安心した土方は公園を見回してみる。
確かに派手に咲き誇り、潔く散りゆくからこそ、人は昔から桜に惹かれ集まるのだろう。
「ちょっと待て」と茜に声をかけてから握った手を離し、新しい煙草に火をつけた。
「夢みたいに消えるから人は目に焼き付けに来るんだろうな。毎年毎年……」
そう言って煙を吐き出しながら、再び手を握り直した。
来年も再来年もこの先ずっと、夢のように消えてはまた同じく繰り返されるこの景色。
けれど、ここにいる二人がこの先もずっと一緒にいられるかどうか、それは決して確かじゃない。
この景色が消えてなくなっても、この先もずっと側にいてほしい。
不意に沸き上がる孤独感に、茜は土方の手を強く握った。
「どうしたんだよ?」
急に強く握られた手を握り返した土方は、前を向いたまま尋ねた。
「ちょっと寂しくなって」
「そんなもんだろ、この時期は。今年で終わりじゃねェんだよ。来年も再来年も春が来りゃあ、また戻ってくる」
「……」
「来年もまた来ような」
そう言って土方は足を止めた。
「来年だけじゃねェ。この先ずっとな」
普段よりもずっと優しい声。
茜の瞳を覗き込む土方の顔が少し赤い。
「意味わかるか?」
「はい」
「本当にわかってるか?」
「え? 来年からもずっと一緒にお花見してくれるんですよね?」
首を傾げる茜に、土方は我慢できず吹き出した。
なんでコイツは言葉の裏を読まねェでそのまんま受け取んだよ。
「え、何で笑うんですか? 私うれしかったのに」
「うれしい?」
「私もずっとこれからも土方さんの側にいれたらなって思ってたから……」
あー、半分は通じてんのか。
土方は空いてる手で、少しむくれる茜の髪や肩についた花びらを一枚ずつ取っていく。
もしも自分に何かあった時、茜のために残せるものは残してやりたい。
それにはきちんとした約束が必要だ。
遠回しな言葉では、茜はまだ若すぎて上手く伝わらないのだろう。
「ほら、全部取れたぞ」
土方は短くなった煙草を捨て、新しいのを口に入れた。
「そろそろ行くか」
一周したら今日は終わりかな。
そう思うと、茜の歩幅は無意識に小さくなっていった。
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