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向日葵の君
告白4

「っしょっと」

年寄りじみた掛け声をかけ起き上がった土方は、布団の上に胡座をかいた。
布団に横たわっている茜を見ると、ぼんやりとあらぬ方向を見つめている。

「眠いのかよ?」
「……ん、ちょっと」

茜は恥ずかしそうに頷いた。

「ガキはもう寝る時間かもな」
「ガキじゃありません!」
「ああ。ガキじゃねェよ、な?」

不意打ちで胸元に触れようと左手を伸ばすと茜は驚いて声を上げ、「やだ、土方さん」とまるで親父を見る目だ。
ふて腐れる顔はまるで子供そのもの。
相手している俺はもしやロリコンか? と、少し心配になる。

布団から出た途端に体が冷えてきた。
今くわえている煙草を吸い終えたら布団に戻ろうと決め、忙しなく吸っては吐いて灰にしていく。

「いい機会だ。他に聞いておきたいことはねェのか?」
「……」

二人が出会う前のことで、もうこれ以上茜を悩ませたくない。
話すことは全部話して、これから改めてやっていけたらいい。
それは土方なりの優しさだ。

何か考えているような表情で黙り込んでいた茜は、体を起こして土方と向かい合うように座った。
正座した膝の上の拳に力が入っているのがわかる。
こういう時の茜はとても思い切ったことを言おうとしている時で、土方は少し身構えた。

「今の自分なら、その人を幸せにできたのかもとか考えたりしませんか?」

案の定鋭い問いに、土方は思わず咳込んだ。

「考えてるんですね」
「ちっ、違う違う!」

慌てて否定するが、茜は不審な目つきだ。

「いや……まぁ、正直言うと考えたことはあったか。その度にお前に後ろめたくてな……。けど今は絶対にねェぞ!?」

形勢は茜ペース。
手ぶらだとどうにも調子が出ない土方は、また新しい煙草を口に入れた。
布団に戻ろうと、たった今吸い終えたばかりなのに。

「わかりました」

意外とあっさり納得した茜の様子に、口に煙草を入れたまま火をつけようか迷って手が止まる。

「私、もう遅いんで今夜は帰ります。最後に一つだけ聞かせてください」

え? 帰んの?
さっきまで一緒に布団入ってたのに、このままでか!?

目をパチクリとさせる土方に、茜は新たな問いを投げかけた。

「もし今ここにタイムマシーンがあって、過去に戻れるとしたらどうしますか? 今の土方さんのままでやり直しできるんです。乗りますか?」

タイムマシーン?
子供みたいな例え話だな、おい。

茜の問いを小さく鼻で笑い、結局は煙草に火を入れた土方は、振り向くと思わず息を飲んだ。
さっきまで普通に話しているはずだった茜の目が、涙で濡れていたから。

「おい」

火を入れたばかりだった煙草を慌てて消し肩に手を伸ばそうとすると、茜は首を振ってその手を拒否した。

「先に答えてください」
「……」

言いたいことはわかる。
 茜の気持ちを考えると胸が痛む。

今の俺ならうまくやれたかも。
確かに最初の頃は自分でも微かに感じていた思いだった。
だからといって戻りたいと思ったことなど、たったの一度もないが。

「結論から言えば戻らねェ」
「どうしてですか?」
「じゃあ、お前はどうなるんだ?」

とにかく泣くなと、もう一度手を伸ばした土方は、今度は強引に茜の肩を引き寄せた。

「最初に言ったはずだ。全部昔の話なんだよ」

何でも話せているようで、ずっと心の奥に隠していたこと。
それを一つ一つ言葉にしていった茜は、悲しいわけでもないのに涙が止まらない。

「なぁ、茜」

背中をさすってくれている土方は、何故だかやけに暢気な口調で茜に呼び掛けた。

「生きてるとどうにもなんねェことが多いと思わねーか?」
「……そうですね」
「その割に、どうにかこうにか上手い具合に流れていく」

何故そんな話になるのかわからないが、声が耳元で心地いい。
次第に茜は眠気を誘われる。

「案外俺達は皆、最初から決められた運命をなぞって生きてるだけなのかもしんねェな」

黙って耳を傾けていた茜は、およそ土方らしくない言葉に思わず吹き出してしまった。

「なに笑ってんだ」
「ごめんなさい……」

緊張感のない茜の様子に不機嫌な顔を見せた土方だが、それでもどうしても話しておきたいらしく話を続けた。

「俺とアイツは……一緒にはなれねェと最初から決まってたんだろ。そんで必ず後でお前に出会える。そいつは最初から決められてた順番にすぎなかったのかもな」
「順番…」
「言い方が悪かった。決まってた運命なんだろ、全てがな。アイツに本気で惚れてたことは嘘じゃねェし幸せにしてやれなかったことに目を背けるつもりもねェ。けどそいつは後悔とは違う」

もうこれ以上は勘弁してくれと、自分が口にした言葉に悶絶寸前の土方は、目を閉じて気持ちを鎮めた。
薄闇の中でも赤くなってるのがわかる土方の頬に、茜の両手がそっと触れる。

「ありがとうございます。もう充分です」

冷たい手の感触に目を開いた土方の目の前には、今度こそ晴れ晴れとした茜の笑顔があった。

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あきゅろす。
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