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向日葵の君
告白3

戸を揺らす風の音がやけに不気味に聞こえる中、決心を固めた土方はやっと口を開いた。

「総悟の姉じゃなけりゃそれっきりだったろうけどな。そういうわけにもいかねェ」
「最後に会ったのはいつだったんですか?」

まさか最近まで会っていたとか。
聞きたくない範囲にまで話が広がっているようで、だんだん茜は不安になっていた。
そもそも、こんなことを聞いたからどうなるというのだろう。 
何故昔のことをあえて話そうとするのか、茜には土方のその真意がわからず不安だけが募っていく。

「もう二年か。それが本当の最期になっちまった」

土方は寝返りを打って天井を見上げ、小さく息を吐いた。

「え? それって……」
「ああ。もういねェんだ」

聞いたことのないような声に、瞳を閉じた横顔に、胸が締め付けられる。

やっぱりこんなこと聞くべきじゃなかった。
想像以上に胸が苦しく、何も言葉が出てこない。

「聞かねェ方が良かったか?」

茜は正直に頷いた。

「俺だって話すつもりなんてなかった。けどな、皆知ってんだ。話の流れでお前の耳に入ることもあるかもしれねェ。誰かからこんな話聞かされたら、お前どう思った? そっちの方が良かったか?」

聞きたくはないけれど、土方が自分のことを思って話してくれているのだとわかった茜は、首を横に振った。

「身体、弱かったんだ。俺なんかと出会わなけりゃ、例え短くとも普通の幸せを味わえたかも知れねェがな」

そう話す土方の目は、何に対してなのか、とても辛そうに映る。

「後悔してるんですね」
「後悔、か。確かにしてたけど今は違う。お前と会って変わった」

急に体が重くなり、耳元から土方の声がする。
のしかかるようにして抱きしめられているのだと、遅れて気が付いた。

しっかりと話してくれた土方の気持ちは、充分に伝わった。
けれど、どうしても聞いておかなければいけないことがあるはずだと、胸に何か引っ掛かっている。
それが何なのかが上手く頭の中で纏まらない茜は、ずっと胸に秘めていたモヤを一つずつ口にしてみることにした。

「私と付き合ってからも……ううん、私を好きだと言ってくれた時も……土方さんは何だか寂しそうな顔してました。その後も時々。私、それがすごく気になってたんです。一緒に町へ出た日の帰りのこと覚えてますか?」
「ああ」
「あの時土方さんはごめんなって言ってくれた。だけど、本当に私のことを好きで付き合ってくれてるのかって聞いたことには答えてくれなかった」

んな細けェこと。
それも付き合い始めの頃じゃねェか。

ほんの少し呆れかける土方だったが、茜の声が涙声に変わり思い直した。

「土方さんの心の中にまだ誰かがいるんだって、ずっと私はそう思ってました」
「……」

もっと早く今夜のような時間を持っていれば、茜は泣きたくなるような気持ちを隠したまま抱かれることもなかったのか。
そう思うと酷い後悔が襲ってくる。

「全然気付いてなかった。すまねェな」

茜の前髪をかき上げるように額を撫でると、茜は笑って首を横に振った。

「同時に二人も住まわせられる程、俺の心は広くねェよ。それに俺がそんな器用に見えるか?」
「見えないからこそ忘れられない人がいるってすぐにわかっちゃったんです」
「だから今はもう誰もいないっつーの」
「今は?」

自分が必死になるほどに茜は笑っていて、土方は敵わねェなと溜息をついた。

「あー、もういい。お前しかいない。最初からな。お前が変に勘繰ってややこしくしてるだけだ」

これまでも不似合いな台詞を散々口にして、それでもまだ茜には足りなくて、今もこうして顔から火が出そうな台詞をずっと口にしている。
土方はもう限界だった。
これが吸わずにやってられるかと、のそのそと亀のように布団から体をずらして灰皿に手を伸ばす。

「あっ、土方さんが元に戻った」
「ああ? 何が?」
「煙草吸おうとしてるから」
「わざわざそんなこと口にしてるオメェも戻ってんだろ」

取り出した一本を口に入れながら、こういうところが可笑しくて好きだと改めて思う。

こういう女だから、俺も楽な気持ちでいられた。
そして茜の本当の思いに気付かなかったのだ。

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