向日葵の君 餅を焼く人3 「もしかしてヤキモチやいてくれてたとか?」 「なっ、何言ってんだ、お前! んなことくらいで妬いたりするわきゃねェだろ!?」 ムキになって否定する土方を見て、ここまで嘘が下手な人はそうそういないと茜は小さく笑う。 「何笑ってんだ、おい。だいたいお前がフラフラしてるから……」 俺も心配になるんだろうが。 ボソボソと漏らしながらジェスチャーで茜を隣に呼んだ土方は、微笑みながら隣にやってきた茜を座ったまま抱き抱えた。 「土方さん……」 呼びかける唇を塞ぐ。 まるでさっきまでの形勢の悪さを取り返すように。 「あんま心配させんな」 「心配じゃなくてヤキモチなんでしょう?」 「だからっ! 違うっつってんだろ!?」 子供のようにいたずらな瞳。 けれどやっぱり女なんだと強く意識する。 そりゃそうかと納得した土方は、この間の夜のことを思い出し一層顔が赤くなった。 「あーヤキモチだ。それでいいから、だからもうそれ以上言うなよ?」 土方の言葉に微笑む茜は、隊服姿の土方に抱きしめられるのは初めてだったと、嗅ぎ慣れない匂いを吸い込んだ。 私も土方さんみたいに、ヤキモチでも何でもはっきり聞けたらいいのに。 けれどそうすることで今が壊れてしまうのは、とても怖い。 「今夜も来るか?」 耳元で土方が囁いた。 「みんなにバレてたみたいですよ?」 「何っ!?」 「沖田さんが言ってました」 「総悟か。アイツが言うことは……」 土方の頭に何かが引っ掛かり、中途半端に言葉が途切った。 始終茜といられるわけはなく、自分の知らないところで茜だって他の隊士と関わりを持っている。 何も総悟に限らず、誰かが悪気なしに昔話をしたっておかしくはない。 「どうかしたんですか?」 「いや……。総悟に何か言われたりしてないか? アイツはすぐ人をからかうからな」 「別にないですよ?」 「それならいい」 土方さん、やっぱり嘘が下手。 茜は内心そう思う。 「私、今日はちょっと体調が悪くて早く休みたいんです。だから」 「ああ、わかった。ゆっくりしろ」 「はい。じゃあそろそろ戻ります」 さっと膝から下り、足早に部屋を後にしようとしても、土方は特に何も感じていないようだった。 いつもと何も変わらない態度。 土方は嘘が下手な上に、少し鈍い。 * * * ザザッザザッ。 中庭の落ち葉を掃き集める熊手の音が響く。 晩秋の昼下がり。掃いても掃いても風が吹けば葉っぱが舞い落ち、キリのない作業に空を見上げて溜息をついたその時。 「今日は一段と冷えるなぁ」 「局長! お疲れ様です」 縁側から近藤がにこやかに笑いかけてくる。 「茜ちゃん! お茶を頼めるかなぁ? ああ、茜ちゃんも一緒にどうだい? 冷えただろ?」 「わかりました。ここが終わってからでいいですか?すぐに行きますから」 「ああ、かまわんよ」 温かい人柄は声にも表れて、近藤と話しているといつも安心感を感じた。 初めて屯所にやって来た頃も、近藤の「大丈夫」に、幾度勇気づけられたことか。 茜は急いで落ち葉の山を作っていく。 突風が吹けばすぐに崩れてしまうが、掃いて集めるのが仕事。 後で焼き芋を作るとか言ってたっけ? 自分も少し食べられるのかを楽しみにしながら、茜は急いで屯所内に戻った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |