By My Side Wingless Bird 1 「それじゃあ銀さん、僕ら行ってきますけど、 本当に遠慮しなくっていいんですよ!? 桜さんも一緒で……」 「新八しつこいアル。銀ちゃんは彼女と二人きりでエロい夜を過ごすつもりネ。ほら早く行くアルヨ」 柳生家で開かれる、クリスマスパーティーという名の大宴会へ新八と神楽が出て行くと、途端に万事屋は一気に静まり返った。 「ったく、どいつもこいつも余計な気ィばっか使いやがって……」 ソファーに寝転がった銀時は小さく呟いた。 新八神楽をはじめ噂を聞きつけた者は皆、二人が恋人同士だと信じて疑わない。肯定はしていないが否定もしていないので当然のことである。 否定したところで、この関係性を理解してもらえるはずもない。それも充分わかっているから、敢えて曖昧にごまかしてるだけだ。 二人の関係が傍からどう映るのか。 そのことについては、銀時は全く興味がなかった。一緒にいたいと思ったから一緒にいるだけで、下手に二人の関係について触れてしまったら簡単に壊れてしまうような気もしていた。 俺ァ恋だの愛だの、形なんざ別にどうでもいいんだよ。 壊れちまえば今度こそ本当に最後になるんだから。 そう自分に言い聞かせ、再び溜息をついた銀時は、狭いソファーの上で寝返りを打つと固く目を閉じた。 辺りがすっかり夜になり空腹がきつくなってきた頃、万事屋へ続く階段を上る軽い足音が聞こえてきた。玄関戸を開けると、荷物を抱えた桜が姿を見せる。 「ごめんね、遅くなって」 「何その袋?」 「揚げた鶏肉だよ」 「ちょうどいいご馳走じゃねーか」 前もって銀時が用意していた酒瓶が並ぶテーブルに桜が持ち込んだご馳走が並べば、万事屋の空気は一気にクリスマスらしく華やいだ。 「メリークリスマス!」 「メリークリスマス!」 二人はグラスとグラスを合わせた。 柄じゃねーなと、銀時は照れくささを隠すように早速料理に手をつけ出した。 「なんか信じられない」 「何が?」 グラスを置いた桜が独り言のように呟いたので、銀時は鶏肉にかぶりつきながら聞き返した。 「去年までは想像もできなかったなぁって」 「……ああ、そうだな」 俺だって去年どころか戦場を駆け抜けていたあの頃だって、まるで想像もつかなかった。 こんな夜。肉を頬張り、酒と、女まで用意された夜がくるなんて。 生きてりゃいいこともあるってか。 そんなふうに考えると胸の古傷が疼いた。 「……人生ってわからないもんだね」 食事が進み酒が回り始めると、先程まで機嫌良くあれこれ話していた桜の口調が、次第にしんみりしたものに変わってきた。 「んなもん、あれこれ考えたってなるようにしかならねェさ。テメェの思うまま好きに生きりゃいいんじゃねェの?」 面倒そうに答えながらも、銀時は桜の心を見透かすように鋭い視線をちらりと送る。桜はかなり酔いが回っているのか、それには気付かず好きに話を続けた。 「銀時は? そうできる?」 「俺か? 俺ァいつだって好きなようにやってるけどな」 「でも……自分の気持ちだけじゃどうにもならないこともあるよ」 端切れの悪い言葉を残して桜は俯いてしまった。 ひとしきり肉を食べ終えた銀時は、グラスに残っていた酒を一気に飲み干すと、桜の隣に近付き肩を抱いた。 「今日は泊まってくだろ?」 耳元で囁くと、桜は聞こえていないかのように反応がない。 「どうした? 気分でも悪くなったのか?」 「……」 黙ったまま首を横に振るだけの桜のはっきりしない態度に次第に苛立った銀時は、抱いていた肩を少し乱暴に押しやって側から離れた。 「何が言いたいんだよ」 銀時の突き放すような冷たい声と瞳に、桜はぽつりとこぼした。 「私…後悔してる」 「…何を?」 「銀時が生きていたってわかった、それだけでよかった。それだけで充分だったのにって……後悔してるの」 そう言ったきり桜はまた黙り込んだ。 たちの悪い絡み酒。そういうことにして聞き流そうとも思ったが、目の前の桜を見ればとてもそうはいかない。 銀時は一気に酔いが醒めた気がした。動揺を表情には出さないよう黙って桜を見つめていたが、やがて溜息まじりに口を開いた。 「んなこたァ、ずっと気付いてたよ」 桜は少し驚いた表情で顔を上げた。 「なら何で今日だって俺を誘った? 後悔なんかするくらいならなんで……」 「わかんない」 「何それ?」 「昔は昔、今は今なのにね。一緒にいるうちにそれがわからなくなってた。あの頃に戻ったみたいな気になって。でも私達はあの頃とは違う。ずっと一緒にいたところでこれからも何も変わらない…っ!?」 言葉の途中で銀時はソファーの上に桜を押し倒した。 「いいじゃねェか」 「……」 「会いたいから会う、抱きたいから抱く。別にそんだけで充分じゃねェか」 恋や愛なんて感情は一切口にはせず、それだけの関係で充分。言葉だけ聞けばとても酷いものだ。 ソファーに押し倒された身体に銀時の体重がのし掛かる。身動きできない桜を見下ろす銀時の瞳は、冷ややかだがどこか苦しげにも見えた。 [次へ#] [戻る] |