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By My Side
Adieu 2

長かった攘夷戦争が終わり、この町はすっかり変わってしまった。 
戦によって命を落とし、この町に戻ることができなかった者。身を潜めるため、どこかの町へ姿を消していった者。 攘夷志士達は皆ばらばらになり、町を多少賑やかにしていた彼らの姿は、もうどこにも見られなくなってしまった。

銀時もそうだ。一目だけでも会いたいと、どれほど桜が望んでも、二度とその姿を見ることは叶わなかった。

「銀時は確かに生きていたはず」

生きているのか、いないのか。必死になって手がかりを求めていた頃にはそんな噂も耳にしたが、今でも真偽は定かでない。

ここに銀時はいない。
それだけが確かな現実。

約束はできないと言って別れたのだから、きっと銀時には戻らない覚悟があったのだろうと、今となってはそう思う。

どこかで銀時はきっと生きているはずだと、いつしか次第にそんな希望を持つこともなくなった。 
生きているのなら何故銀時は自分の前からいなくなったのか。それを考えるのはあまりに辛すぎたからだ。


久しぶりに海岸にやって来た桜は、初夏の日差しを浴びて大きく深呼吸をしてみた。
最後に銀時と会った日から既に季節は何周もし、二人が出会って共に過ごした時間をとっくに越えた。
今日この海岸へ来たのは、もうここに来るのが最後になるからだ。いつまでもこの町にしがみつくわけにいかない。これからもずっと独りで生きていかなければならないのだから。
開国以来、目覚ましいスピードで進化してる江戸に出ることを決めた桜は、どうしても最後にもう一度、この景色を見ておきたかったのだ。

砂浜に一人腰を下ろし、穏やかな波音にただ耳を傾けてみる。景色も音も匂いも何も変わっておらず、まるで今も隣に銀時がいてくれるかのような、そんな錯覚を覚えた。

「あーあ。潮風のせいで髪がワッサワサになっちまうじゃねェか」
「それは潮風のせいじゃないよ。元からだよ」
「んだと? コラ」

普段は忘れてしまってる小さなやり取りを不意に思い出し、桜は一人でくすくすと笑った。

「……約束、できねー」

最後に会った日、確かに銀時はそう言った。
あの日、もし彼が必ず帰ってくると嘘でも約束してくれていたら、きっと私はこの町からいつまでも離れられずにいただろう。帰らない銀時をこの先もずっと待ち続けるのだろう。

これで良かったんだ。

もうここに戻ることはない。いずれ胸の痛みも癒える日が来るはずだ。
だけど銀時と出会えたことだけは、決して忘れたりはしない。心の片隅にずっと銀時がいるから。

腰に付いた砂を払いながら立ち上がった桜は、一人砂浜を後にした。

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