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By My Side
Young days 9

「正直嬉しいよ。私のことそういうふうに見てくれるんだって、やっぱりすごく嬉しい」
「それだけか?」

確かにさっきは待てると思った。
「今すぐどうこうって話じゃない」とも言った。
その舌の根も乾かないうちに答えを求めていることに気付いた桜が笑った。

「ちょっと待って。何か誘導尋問になってない?」
「そんなんじゃねェよ。俺も振られんのは痛ェだろ? ちょっとでも良い答えを聞き出したいだけだ」

こんなふうに話せるんだから、本当は桜も俺のこと…。

心の内で自分に都合の良い解釈をしてみると、さっきまで痛かった胸が途端に騒ぎ出す。
つくづく身勝手なもんだと自分でも呆れる。

互いの姿がはっきりと見えない分、二人の距離は自然と昼間よりも近い。
すぐに手が届く距離で綻ぶ唇が、次に開くのをじっと待つ。
何度も波音が繰り返す中、ふいに桜は笑みをこぼした。

「何だよ」
「こうやって銀時といるとさ、すごい嬉しいし…幸せってこんなんだろうなとか思って」

普段はしっかりとした口調で喋る桜の声が、やけに甘く耳に届く。

あー、やっぱりコイツ女なんだな。

そんな当たり前のことを改めて思った。
桜に対して抱く特別な気持ちが、世に言う恋愛感情かどうかなんて、まだ本当は自分でもよくわかっていない。
正直桜のことを、仲間のような家族のような、何かを共有する関係性に例えてしまうことが多いのも事実だ。
だけど今。
桜は自分とは違う、女なんだと確かに意識した。

「銀時も私といて、そう思ってくれる?」
「ああ。いつもだ」

誰もいない夜の砂浜。
このシチュエーションといい、まるで筋書きの決められた物語の登場人物にでもなったようだった。
予め与えられた台詞のように、何も考えなくても次の言葉が口をついた。
頭の片隅では桜の次の言葉までもが、ぼんやりと浮かんでいる。

「私も銀時のこと、好きなんだと思う」
「本当か?」
「うん」

現実感のないまま進んでいく都合の良いストーリーは、半分覚めかけた頭で見る夢と似ている。
ぼーっとした頭で規則正しく響く波音を聞いているうちに、少し酔ったのだろうか。

胸がいっぱいなのに、どこか不安で怖い。
思わず桜の肩に触れた銀時は、自然とその肩をこちらに引き寄せた。

「手ェ、早いよ」

桜がボソッと呟く。
けれど嫌がる素振りもないので、銀時は少し調子づいて力を強めた。
抑え切れない男の衝動というのではない。
例えるならば、安らぎを求める幼子に近いかもしれない。

「うるせェよ。こういう時は黙って抱かれてろ」
「やだ」

口ではそう言いながら、桜は身体を預けると小さく息を吐いた。
そしてまるで幼子を宥める時のように、銀時の背中をゆっくりと撫で始める。
心の底から幸せだと感じると共に、離したくないと強く思った。

物心がついた頃には独りだったから、それが当たり前だと思っていたけれど。
ある日差し伸べられた手に救われ、仲間達と出会い、そして別れ、手に入れては失って。
いつの間にか孤独や人恋しさを知ってしまったのだろう。
もう独りには戻れない自分に、桜と出会って初めて気が付いた。

孤独も人恋しさも、ちゃんと認めて乗り越える。
そんな強さを持つ桜に縋っていると、理由のない不安が解けていく。

もはや傷の舐め合いでも何でもない。ただ一方的に甘えているだけだ。 
情けないなんてもんじゃない。

けれどそんな自分を認めたら、桜が側にいてくれるなら。
自分も強くなれる気がした。

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あきゅろす。
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