By My Side
Young days 8
「俺はお前が好きだ」
もしもここが太陽の下だったなら、桜が今どんな表情を浮かべているのか、きっとよく見えるのだろう。
だが月のない夜の星明かりだけでは、桜の表情すらはっきりとわからない。
桜の気持ちが読み難いのは、太陽の下でも同じかもしれないが。
波音に混じって桜が何か迷っているような、何か言おうとしているような、そんな息遣いが聞こえる。
好きだと言ったのに桜がすぐに返事をしないということは、もう振られたも同然だろう。
それでも銀時は、ずっと待とうと思った。
明日からもこれまで通りの関係のままでいられるなら、いくらでも待てると思った。
だが桜はどういうわけか、ずっと何か言いあぐねている様子で、次第に銀時も気になってきた。
すぐ近くで気配でわかるほど悩まれるくらいなら、いっそ叩き落としてほしくなる。
「あのさ。別に今すぐどうこうって意味で言ったわけじゃねェから」
「あー…」
「ま、こういうのも迷惑っつーなら遠慮しねェで言ってくれよ」
「迷惑なんかじゃないよ!」
それには桜は即答だった。
「そうじゃなくって…」
「じゃあ、何だよ?」
「んー…実感がないというか、ピンとこないっていうか…」
桜は言い切らないまま途中で止めた。
銀時は小さな溜息をついて視線を空に移すと、さっき見えていた星座の位置が変わっていることに気が付いた。
いつも知らぬ間に時間は流れていて、いつまでもこうしていられないし、そもそもこの町にだっていつまでいられるかわからない。
好きだのなんだの暢気なことを言ってる自分よりも、実感がわかないと言う桜の方が本当は現実的なんだろう。
あー、痛ェな。
本当にこういう時、胸が痛むんだな。
刀傷に似た、滲みるような疼くような痛みにそっと溜息を漏らすと、桜が反応した。
「ごめんごめん! ちゃんと言わないと誤解されちゃうね」
「誤解って…、他に何かあんの?」
「うん。あのね、私…銀時みたいな人に会ったの初めてで。一緒にいると楽しいし嬉しいし、友達とか家族とかってこんな感じなのかなぁとか、ずっとこんな風にいられたらいいなって思ってた」
まだまだ続くだろう桜の言葉を聞き逃さないように。
そして暗闇の中、少しでも桜の顔が近くで見られるようにと、銀時はゆっくりと身体を起こした。
「好きになって終わりが見えるのは嫌だから、銀時のこと意識しちゃわないように頑張ってた」
「で? 結局のところ、今のお前の気持ちはどうなわけ?」
早急すぎるのはわかっているが、こんな思わせぶりな言葉を耳にして我慢できるわけがない。
このまま宙ぶらりんの状態で別れるのは、はっきり振られるよりも耐えられない気がした。
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