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By My Side
Young days 6

松林を抜けた途端、大きな波音が耳に飛び込んで一気に闇が薄くなったような気がした。
今夜は朔夜。満天の星明かりが一層際立つ夜。
遠くにいくつか光が見えるだけで、他に明かりといえるものはないが、ここに来る道中があまりに暗かったこともあり嬉しいほど明るく感じる。
空を見上げた二人は、黙ったまま顔を見合わせた。
松林を通り抜けてきた時のまま寄り添っていた二人は、少し身体の距離を開けたが手は自然に取り合ったまま。
次第に目が慣れてきた頃合いを見計らって、桜は肉眼でも大丈夫だろうと灯りを消した。


「も少し近くまで行ってみる?」
「ああ」

ゆるい下り坂になった砂浜を波打ち際に向かって進んで行く。
昼間よりも大きく響いて聞こえる波音。
足元の砂がだんだんと湿り気を帯びてくる。
真っ黒な波が砂浜に侵食してくるのが、暗い中でもはっきり見えた。

どちらからともなく二人は真っ黒な波へ向かって駆け出した。
履いていた草履を脱ぎ捨て、後の事も考えず放り投げる。
足首を摺り抜けた海水が想像以に冷たくて思わず足踏みすると、濡れた砂と引き波でバランスを崩しそうになる。
横で桜が裾を大きくたくし上げるのが視界に入った銀時は見なかったふりをするが、すぐに無駄だと思い知った。

迫りくる波の音。
はしゃぐ桜の笑い声。
素足で踏みしめる濡れた砂の感触。
穏やかだが読めない波。

そのどれもが、はっきりと見えない分だけ神経を刺激して、とても平然としてはいられなかった。

見えない波と戯れるのに夢中で繋いでいた手が解けそうになり、慌てて指先を捕まえる銀時の手を
桜が手繰って強く握り返す。
初めて出会った時と同じ、素直な笑顔を浮かべながら。

何も考えられなかった。
桜の腕を引き寄せ、その身体を胸に抱いた。
まるで、そうすることが当然かのように。
最初は驚いて固まっていた桜が、そっと胸に頬を寄せた。

きっと桜も同じ気持ちでいるはずだ。
幸せという言葉の意味を知らずに今日まで生きてきたが、きっと今の気持ちがそれに近いのだろう。
何故だか銀時は確信めいた思いがした。

「銀時」
「ん?」
「ありがとう」

唐突に桜が口にした言葉の真意がわからず、銀時は腕を解いて桜を見つめ返す。

「何が?」
「いつも私のこと構ってくれて、ありがとう。」
「……」
「みんな私のこと…敬遠するからさ。色々知っててもそんなの関係なく構ってくれるのは銀時くらい。だから銀時といると楽しいの」

あまりに真っ直ぐな言葉なので、銀時には言葉に隠された感情を深読みすることができなかった。
この状況で桜の言葉をどう理解すればいいのか、相変わらず翻弄させられるばかり。

「銀時?」
「あー…」
「どうしたの?」

自分が傷つかないように。
無意識のうち、そんなことばかり考えてしまうけれど。
桜のように素直に言葉にしたら、何かが変わって動きだすだろうか。

ふと銀時はそんなことを思った。
何かを変えたいと強く思った。

「俺も似たようなこと思ってた。桜といるとすげェ楽で、団子食いてェしお前に会いてェしって…、だから毎日通ってた」

桜は何も言わず微笑んだ。

「これって傷の舐め合いか?」
「そうかもね」

心の中では違うと思っている銀時は、即答する桜が意外だった。

「傷の舐め合いでもいいんじゃないの? 動物って舐めて傷を治すでしょ? ってことは傷の舐め合いってお互いの傷を癒してあげるってことだから全然悪い意味じゃないって思うけどなぁ」
「いや、俺達ゃ野生動物じゃねェけどな」

桜の解釈に思わず呆れ笑いがこぼれる銀時だったが、何だか救われた気がした。

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あきゅろす。
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