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By My Side
Young days 4

「付き合ってあげてもいいよ?」

しばらく二人の間に流れていた沈黙は、桜が口にした思わぬ言葉で破られた。

「は?」
「銀時が行きたいなら一緒に海、行ってみる?」
「あー。そういうことか」
「うん」

何のことかと戸惑ってしまったが、さっきの話の続きなんだとわかった。
さっきまでの話の流れだと海以外に当てはまらないのに、他に何を想像したというのか。
動揺した銀時は、それを隠すことさえ思いつかない。

「海って俺が言ったのは夜の海だぞ!?」
「わかってる。昼間は付き合えないもん」
「あー…そうだな」

昼間は団子屋で働いているのだから、桜が自由になる時間は当然夜に決まっている。
余計な事を言ってしまったが、桜の態度はいつもと同じく、そんなこと気に留めていないかのようだった。
本当に気に留めていないのか、そういった体を装っているだけなのかはわからないが。

「でも本当に真っ黒だからね。浜はそうでもないんだけど、浜に出るまでが半端ないから、それは覚悟しててよ?」
「お前は平気なのかよ」
「一人なら勘弁だけど、銀時と一緒なら大丈夫」


こいつはよォ…。
何にも考えてないのか、そういうつもりで言ってるのか、見せもしねェ。

相変わらずこっちが翻弄させられてばかり。 
この形勢を逆転するため何か言ってやろうと考えたが、何を言っても滑ってしまう気がする。
呆れた視線を向けられ、冷や汗をかきながら慌てて言い訳する自分しか思い浮かばない。

「じゃあ行ってみっか」

すぐに何気ない返事が返ってくるものだとばかり思っていたが。
桜は一瞬言葉に詰まったような間を置いてから、静かに笑みを浮かべただけ。
見慣れない表情に銀時は怪訝な顔で首を傾げた。

「どうかしたか?」
「ん? なんかドキドキするなと思って」
「ああ。ちょっとした肝試しみてェだよな」

桜の言葉を真に受けたら振り回されるだけだ。
わざと外した返事に桜は、「そうだね」と笑うと、長椅子から立ち上がった。

「さ、休憩終わり! いい加減そろそろお客さんも来る頃かな」
「そういや、今日は人が少ねェな」
「そうだね」

今日はまず最初に桂とやって来て、その後桂が帰って二人になって。
正確な時間まではわからないが、確かにこの通りにはずっと人通りがなかった。
普段はせっかくの会話が、しょっちゅう客に遮られてしまうのに。

今日みたいな時間が続きゃいいのにな。

団子屋からすれば商売にならないだろうが、銀時は内心そんな不謹慎な事を願ってしまう。
それでも今日は大きな約束を取り付けたのだ。
ここはすんなりと帰ろうと、やっと長椅子から真っ直ぐ腰を上げた。

「どこに迎えに行ったらいい?」
「ここで待ってる」
「わかった。じゃあ、またな」

後ろ手に手を上げ帰り道を行く。
約束がいつなのかも決めていないが、何となく今夜しかないと思えた。
桜もきっとわかっているはずだと。

約束は先延ばしにするもんじゃねェ。
気が変わらねーうちに早く決めてしまわねーなと。

「待ってるね」

振り返ると、桜が店先で手を振り見送ってくれている。

今夜ここへ来たら。
桜は同じように手を振って迎えてくれるはず。
何故だかそう強く感じた。

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