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By My Side
Young days 1

客足が止まる昼下がり。
いつも銀時はこの時間帯を狙って馴染みの団子屋に足を向ける。
草履を引きずりながら乾いた砂を蹴り上げ歩く団子屋前の一本通りは、人の姿もまばら。
こんな日は大抵暇を持て余して、店先の掃き掃除をしている桜の姿が遠くからでも見つけられる、はずなのだが。
今日はその姿がなかったので、仕方なく銀時は店内に足を踏み入れた。
本日二度目の来店である。

「よォ」
「また来たの?」
「お前ねー。客相手に何だ!?その言い草は」
「客!? どうせまた廃棄処理目当てでしょ?」
「ちげーよ。今回はちゃんと客だ」

袂から取り出した小銭を見せつけると、桜はすぐにとびっきりの作り笑いを見せる。

「いらっしゃいませ」
「おう」

店先の長椅子に勢いよく腰を下ろすと、すぐに桜が団子を用意してやって来た。

「はい。どうぞ」
「ありがとな」

早速団子を口に入れる銀時を尻目に、桜は店内に戻って行った。
他に客はいない。
何故だかいつもこの時間帯は静かで、長椅子に座る銀時と店内に佇む桜、二人は少しの間だけ話すことができる。

「毎日毎日、よく飽きないもんだね」

団子を頬張る銀時を眺めながら、桜は呆れたように言った。
ほんの一瞬、おそらく本人でさえ気付かないほど微かに表情が変わった銀時は、団子と一緒に用意してくれたお茶で一息入れてから返した。


「飽きねーよ」



銀時はこの町に来て初めて甘味というものに目覚めた。
もちろんそれ以前にも、団子の一個や二個くらいなら食べたことはあった。
寺子屋に通っていた頃、きっと何かの行事だったのだろう。近所の女性が作ってくれた素朴な団子の味もうっすらと覚えている。
だが、お金を払って食べるような代物には、これまで全く縁がなかった。

戦に参加し、やってきたこの町。
通りがかったこの店を偶々覗き込んだ銀時を、とびっきりの笑顔で迎えてくれたが桜だった。
向こうも商売なのだから当然といえば当然だが、同世代の少女に何の屈託もなく気さくに接せられたのは初めてで、銀時はその日のことをよく覚えている。

「良かったら食べてみる?」

店番を任されている桜が分けてくれた団子を口に入れた時の感動といったらなかった。

「世の中には、こんなうめェもんがあるんだな…」

一口目の団子が喉の奥に消えた後、思わずそう呟く銀時に、桜はケラケラと笑った。
その笑顔には侮蔑も哀れみもなかったように思う。
可笑しなことを言う男だと笑った、ただそれだけ。

勘繰ろうとしない。特に理解しようともしない。
それが逆に心地よく感じた。



「私はもう飽きたなー。あっ! これ内緒だからね?」
「わかってるって」
「団子も美味しいよ? でもさぁ…。あー、一度でいいからケーキ食べたーい、プリン食べてみたーい!」

桜はわざとおどけた口調で叫ぶと、自分から吹き出した。
つられて笑いながら銀時は、何て言えばいいのか悩まずに済んで良かったと、心の片隅で思った。

この団子屋の実の子らは、きっとケーキもプリンも食べたことがあるのだろう。
けれど桜が日々の食事以外に口にできるものといったら、この店の団子以外ない。
ここにいる限り、これからもずっと。


両親の代わりに祖父に育てられていたという桜は、後に遠い縁者であるこの団子屋の夫婦に引き取られたのだそうだ。
桜自身は経緯について一切覚えていないと言うので、きっと物心がつく以前の話なのだろう。
 
そういった身の上を桜は特に隠そうとはしないし、かといって自らひけらかし殊更同情を乞うような真似もしない。
全て受け止めた上で、時にはさっきのように素直に憧れを漏らしたりもする。
それが銀時には羨ましく思えた。

自分も同じように物心がついた頃には親がおらず、本能のままに生き延びていたところを救われたというのに、いつもどこか卑屈だった。
憐れみの視線にとても敏感だった。 
  
朝から晩まで団子屋で働く桜の身の上を知るにつれ、周囲の連中は無意識に彼女を敬遠し避けていく。
けれど銀時は最初から彼女に親近感を覚えていたし、一緒にいると戦の緊張感の中でも少し気持ちが楽になる気がした。
そうして頻繁に団子屋に足を運ぶうちに桜は、廃棄処分となる売れ残りの団子を分けてくれるようになり、ますます団子屋に足が向かった。
 
刷り込み、餌付け?
なんて言ったらいいかはわからないが、完全にハマってしまった。
団子と、そして桜にも…。
だから毎日通っても飽きるわけがないのだ。

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