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By My Side
By My Side Side.K

「私も、何も知らないの」

桜が言った。

「一度も会わなかったのか?」

黙って頷く桜の表情は固い。
わざと気持ちを抑えているんだろうというのは、桂にも伝わった。

「銀時は本当に生きてるのかな……? 今までいろんな人に聞いて回ったけど、はっきりしたことは全くわからない。桂さんは知ってるんでしょ?」

桜とそんなに親しかったわけではないが、いつも銀時の横にいた幼い笑顔は記憶に鮮やかだ。
けれど目の前できっと懸命に感情を抑えている桜は、もうすっかり大人になっている。
それが桂には悲しかった。

「銀時は生きてるはずだ。少なくとも俺の知る限りでは生きていた」
「じゃあ何で!?」

急に桜は大声を上げた。

「なんで銀時は私に会いに来てくれないの!? ちゃんと生きてるって、なんで顔だけでも見せてくれないの!?」
「それは俺にもわからん」

衿を掴み必死で訴える桜を受け止めることができず、桂は目を逸らした。

「会いたい……。銀時に会いたい」

掴んだ手をそのままに頭を垂れ、小さく呟く。
その涙交じりの声が哀れでたまらず、桂は桜の背中に手を当てた。
その手に押されるように一歩近付いた桜は、掴んだままの衿に顔を寄せ、

「一目だけでいいから、銀時に会いたい。会わせてよ…」

泣きながら訴える。
桜の背中をさすりながら胸を貸す桂は、きつく目を閉じ息をついた。

雨に打たれ天を仰いでいた昔馴染みの横顔が、瞼の裏に浮かんでくる。

銀時、何故お前はあの時泣いていた? 
国を護る志も半ばに姿を消し、こんなふうに桜を泣かせてまで、お前が護りたかったものとは一体何だった?

お前は今何を思い、どう生きている?

桂は行方知れずの男に、心の中で問いかけた。

「桜」
「はい……」

そっと顔を上げた桜の涙で濡れた瞳に胸が痛む。

『っとに気の強い女でよォ』

あの頃銀時がよくこぼしていたっけ? 
ヤツが本気でそう思っていたのなら、たいした馬鹿だ。
何も言わず姿を消し、それで桜が平気でいられるとでも思っていたのだろうか。

いや、違うか。
死んだような目をしてあまり人に心を開かなかったヤツが変わったのは、この町に来てからだった。
もちろん桜だけが理由じゃないだろうが、二人でいるときの銀時は本当にいい顔をしてたものだ。
兄妹のようにも見えた二人。
銀時にとって桜は、簡単に置き去りにできる相手ではなかったはず。

「何か理由があるはずだ」
「理由?」
「ああ。きっとヤツなりに思うことがあったのだろう。桜からすれば身勝手な理由かもしれんがな」

桜は黙って頷き、桂の衿から手を離した。

「桂さんも銀時を探していたのに、何の力にもなれなくてごめんなさい」
「俺の方こそ、何も知らずに悪かったな」
「ううん。桂さんだけでも、こうして元気な顔が見られて良かった」

桜の言葉に桂は少し驚いた表情を浮かべ、そのあと軽く微笑んでみせた。

「俺も自由な身でないから、もうここに来ることもないと思うが、これからも銀時を探し続けるよ。桜も元気でな。幸せを祈ってる」
「ありがとう。桂さんもね」

桂はまた目深に笠を被った。
店を出て行く桂に桜が手を差し出す。
その手を握り返し店を出た桂は、一度も振り向かず暗闇に姿を消した。
再び店内に戻った桜はその場にしゃがみ込んだ。

桂さんも行方がわからないなんて。
本当にもうこの世にいないんじゃないの?
銀時、一体どこにいるの?

いくら待っても、もう二度と銀時には会えない。
それは恐怖にも近い。
だけど桂の言った通り銀時は必ず生きていて、彼なりの理由で姿を消したのだとしたら。
彼の中で自分は、とても小さい存在だったのだと認めなければならない。
私は捨てられたのだと。
どちらにしても辛いことには変わりなかった。

桂さんは幸せを祈ってると言ってくれたけど。
銀時と会って初めて幸せを知った私が銀時もいないのに。

「また幸せだと思える日なんて、来るのかなあ…」

桜は立ち上がると、一人そう呟いた。

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あきゅろす。
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