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By My Side
By My Side Side.K

「よいしょっと」

今日最後の団子を店先に運び終えて一息ついた桜は、空になった箱を持ち上げ奥へと戻った。
再び店先に顔を出すと、やっと一休みできる。
思わず欠伸が漏れた。
今がちょうど客足が途切れる時間帯だ。
だからといって店先であまり暇そうな顔を見せられないと、桜は箒を片手に通りへ出た。

まだ戦時中、攘夷志士がこの町にたくさんいた頃は、甘党の男達がひっきりなしにふらりと現れたものだった。
今ではそんな光景も見られなくなってしまったが。

ちょうどこのくらいの時刻が多かった気がする。 砂を蹴るように軽く草履を引きずって歩きながら、銀時が店に顔を出しに来ていたのは。

『よォ』

未だに耳に残って離れない声を再び反芻する。
その声が頭に響くと習慣になっているのか、つい自然に笑みが浮かんでしまう。
そして次の瞬間、涙がこほれそうになるのを慌ててこらえた。

銀時がいなくなってから。
もう何度同じ事を繰り返しているのだろう。
今も桜は、変わり映えのない毎日を過ごしていた。



 * * *



すっかり陽も落ち、店終いのため暖簾を下ろしに軒先へ出た桜は、微かな足音に振り向いた。
そこにいたのは笠に隠れて顔まではわからないが、今ではすっかり見かけなくなった若い侍だった。


違う、銀時じゃない。


「すいません。今日はもう終いなんです」

声をかけると男は笠を少しずらしてみせ、そこには確かに見覚えのある瞳が現れた。

「桜」
「ヅラ君……」
「ヅラ君じゃない、桂だ……って、ここは間違えずに呼んでほしかったな」
「無事、だったんだ」
「ああ」

銀時とは幼なじみだったという桂。
あの頃は銀時を通してそれなりに交流もあったが、桂も銀時と同様に戦争が終わるとこの町に戻ってくることはなかった。

「桂さん! 銀時は? 銀時はどうしてるの!?」

銀時と共に戦っていた桂が戻ってきたのだから、きっと銀時だって……。
桜は思わず詰め寄った。

「ああ。今日はヤツのことでここへ来た。桜、少し時間をもらえるか? ここではちょと……」
「あっ! 中へどうぞ。入ってください」

毎日の店終いは桜の仕事で、主人達はもう住まいに戻っている。
人目を憚るように辺りを見回す桂を店内に招き入れた桜は、暖簾を下ろして中へ戻った。
 
「久しぶりだな。元気にしてたか?」

桂の常に強く真っ直ぐ前を見据える瞳が、微かに緩んだ。

「はい」

今も桜の中に色濃く残る思い出以外、この町に銀時が残したものは何もない。
そんな中、銀時と強く繋がりのある桂と会えたことがとても嬉しかった。

「あの……桂さん」
「銀時を探してる」
「えっ!?」
「何でもいい、ヤツから何か聞いてないか? 知ってることがあったら教えてほしい」

そう言って桂は頭を下げた。

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あきゅろす。
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