By My Side
Let's Stay Together 2
「どうしたの!? こんな時間に」
完全に寝る用意を済ませていた桜は、銀時だとわかると慌ててドアを開けた。
「いや、忙しそうで顔も見れねェからさ、大丈夫かって様子見に来たんだよ」
「そうなの……。まぁ上がって」
「顔見に来ただけだから。遅いし帰るわ」
「待って!」
桜が銀時の手首を掴んだ。
「何かあったんじゃないの? 時間は大丈夫だから、上がって」
部屋へ上がるのは久しぶりで少し落ち着かない銀時に、桜は冷蔵庫から出した缶ビールを差し出した。
「飲む?」
「いや、帰れなくなるから」
「泊まっていけばいいじゃん」
そう言って蓋を開ける桜に対し銀時は、
「なにその女友達が訪ねて来たみたいな態度は」
と、ビールを受け取りながらぼやいてみせた。
「俺、お前の顔見たくて来たんだけど」
「うん」
「じゃなくって」
何も考えてなさそうな桜に、銀時は大袈裟に溜息をついてみせた。
「俺ァね? かれこれ一ヶ月、お前の顔見れねーわ、声も聞けねーわで、我慢できなくてこんな時間にバイク飛ばして会いに来たわけよ」
「……」
「それを何もないような顔で出迎えやがって。会いたかった! とか、ちょっとはお前もそーゆーのないわけ?」
一気にまくし立てた銀時は、俯いてしまった桜にちょっと言い過ぎたかと手を伸ばした。
「あー……ごめん。桜?」
抱き寄せると桜は簡単に身を任せ、腕の中で小さく呟いた。
「……だって私からすれば一ヶ月なんて長くも何ともないもん」
「どういう意味だ?」
「銀時がいなくなった時のことを思えば、ちょっと忙しくて過ぎた一ヶ月なんて何でもない」
生死さえわからない銀時を何年もあの町で待ち続けた日々。あの頃のことを思えば何て事はない。
「じゃあ俺ァどうすりゃいいんだよ」
「……」
「そりゃあの頃に比べりゃ一ヶ月なんて短いよな。けどそんなことを引き合いに出しゃ何年会わなくても平気っつー話になってくんだろーが」
「平気じゃないよ」
桜は腕をほどいて抜け出し真っ直ぐに銀時を見つめた。
「銀時が忙しくて会えない時は私も会いたくて寂しかったよ? だからそういう時は言い聞かせてた。あの頃に比べれば全然マシだって」
「……」
「さっきも銀時が会いに来てくれてうれしかったよ? けどそれよりも先に何かあったのかって心配だったからあんな感じになっただけ。それに『会いたかった』何てキャラじゃないこと知ってるでしょ? それともそういう女がよかった?」
「お前だって可愛い時あるじゃん。語尾にハートがつきまくってる時あんだろ」
「ないよ」
「あるって!」
コソコソと耳打ちすると、「親父!」と一言返ってくる。
開けたままだったビールに桜が手を伸ばしたのを見て、銀時もビールを手にして軽く缶をぶつけ合った。二人は喉を潤し一息つく。
「なぁ桜」
「何?」
「お前はさー、毎日顔だけでも見てェ、声だけでいいから聞きてェって思わねェ?」
「思うよ」
「もっと近くにいりゃな、一緒に暮らせりゃなって俺はずっと思ってたよ」
驚いたように桜が顔を向けた。
「まだ一人で暮らした方が気楽か?」
目を見て真面目な声で尋ねる銀時に、桜は黙って首を横に振る。銀時は手にしたままだったビールをそっとテーブルに置いた。
「俺、最近は結構ちゃんとやっててよ……家賃も遅れず払ってるし。お前がきても髪結いの亭主にはなんねーからさ」
「……」
「一緒に暮らそう」
黙ったままの桜を覗き込みながら銀時は言った。
別に口元は笑ってるわけでもないのに、とても優しい瞳。
桜は初めて会った頃の銀時を思い出した。普段はよくからかってきて憎まれ口を叩くこともあるのに、不意にとても優しい瞳を見せる。たった二歳しか違わない銀時がすごく大人に見えたっけ?
何故だか勝手に涙が溢れてきた。
「これは嬉し涙でいいんだよな?」
涙を指で拭った銀時は、桜を胸に抱いて尋ねた。
「うん……」
「で、返事は?」
「うん」
「どっち?」
「一緒に暮らしたい……」
桜を抱く腕に力が籠もる。
「お前のこと離したくねー。俺、結構嫉妬深い野郎だったみてェだ」
「……知ってたよ」
桜がクスッと笑う。
「んじゃー、覚悟しとけよ」
ひどい回り道をしたけれど、振り返ればこんなに長い時間、いつも心は近くにあった。これからまた新しい二人の形が始まる。
ずっと俺の側に。変わらず桜がいるように。
銀時はそう祈りながら、確かめるように桜を抱きしめた。
'10.7.10
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