By My Side
Let's Stay Together 1
珍しく暇を持て余す一人の夜。気付けばもう一ヶ月、桜の顔を見ていない。
「そういや声もまともに聞いてねーな」
ソファーに寝転がる銀時は、恨めしげに電話に目を遣った。だが三回連続空振り続きで、もう電話する気にもなれない。
ったく忙しい忙しいってよー。俺ァ別に丸一日付き合えっつってるわけじゃねェんだよ。ちょっと顔見るくらいいいだろうが。
これが倦怠期ってやつなのか?いやいや、別々に暮らして倦怠期もクソもねェからね。
別に見る気にもならないテレビをつけると、画面一杯に流行りの人気男性タレントが大写しになった。
「チッ……」
舌打ちして天井を仰ぐ。
桜が働いてる店って、こんな感じの野郎がたくさんいたよなァ。
忙しいって言いながら楽しそうだもんな。
一度店を見に行った時のことを思い出し、もやもやした気持ちが沸き上がってくる。
なーんかチャラチャラした野郎ばっかでよォ。こっちはサラッサラのキューティクル侍目指してるっつってんのに、
「今は癖毛風? わざと寝癖っぽい? そういうのが流行りだから。お兄さんなんかちよっとワックスつけたらさ、ほら。もう完璧?」
風もねーのに風に吹かれたみたいな頭にしてくれやがって。
ま、桜と合いそうな奴らにゃ見えなかったが。
いや、待て。確か前の男も同じ店で働いてたんだよな。案外桜っていつも身近にいる男に弱いとか?
いや…ないないない。それはない、きっとない。
たぶん、ない。
一人であれこれ考え出すと、ロクなことがないのはわかっている。目の前で桜が笑ってくれさえすれば、それだけで気が済む程度の不安なのだから。
「ちょっと顔見るだけならいいだろ……」
玄関を飛び出した銀時は、慌ただしく階段を駆け降りバイクに跨がった。
* * *
せめて近くに住んでくれてりゃなァ。
今はスイスイと流れているが、昼間は信号や踏切で無駄に時間がかかる。
銀時は何軒か万事屋の近所の部屋も探したが、結局桜は新しい職場が用意した部屋を選んだ。それでも以前に比べれば物理的な距離は確かに縮んでいるはずなのに、あまり変化を感じられないのは何故だろうと不思議に思う。
「んあッ!?」
突如背後からクラクションが鳴り響き、振り返るとパトロール中の真選組だった。少しスピードを落とすと一台のパトカーが近付いてくる。開いた窓から巻き散らかされる煙で、誰なのかは見なくてもわかった。
「こんな時間にどこ行くんだよ」
「どこでもいいだろうが」
「女だろ?」
普段は色恋沙汰なんざ興味ないような顔をしてるこのニコ中が、人の色恋には興味津々で口出ししてくるのが意外だった。
「テメーには勿体無い女」が決まり文句。
「うっせーな。ジャンプ買いに行くんだよ。じゃあな」
控えめに加速して先を急ぐ。
アイツ、桜に興味あんのかもしんねーな。危ねェから桜には関わらないようにしよ。
ったく、これで一分半のロスだ。
桜の家までは残り僅か。今頃何してんだろうと考えながら走る気分は悪くない。家に一人でいるより心は晴れていた。
自分でも薄々気付いてはいたが、元来相手を束縛したいタイプなのだと改めて思う。
今よりもっと近くに桜がいたら、二人はどう変わるだろう。
一緒に暮らしたら、桜はどんな顔を見せてくれるだろう。
桜の部屋はもう目の前、まだ明かりがついている。
顔を見るだけ。安心したら帰るから。
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