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By My Side
Unravel 2
重く長い沈黙が続く中、波音は先程までよりも激しさを増し、耳障りなほど響き渡る。
泣いているのかと、銀時は横目で桜の様子を窺うが、桜はただ無表情でじっと前を見据えているだけだった。

「なぁ、桜…」
「わかんない。銀時はいつも、何を考えてるのかさっぱりわかんない」

少し遠慮がちに声をかける銀時を無視し、桜はまるで独り言のように呟いた。

「口では好きだ好きだって言っても、本当は生きていたくせに私の前からいなくなっちゃったしね」
「……」
「今だってそう。抱くだけ抱いて結局は突き放す。離したくないなんてただの銀時の身勝手じゃない」
「……」
「私バカみたい。わざわざ思い出引っ張り出して会いにまで行って…全部ぐちゃぐちゃに壊しちゃって…。今更銀時になんて会わなきゃよかった…」

初めてぶつけられた桜の本音の言葉は、最後は掠れた涙声に変わった。今までずっと見せることのなかった桜の本音に、銀時はやっと二人の答えを見つけた気がした。

このまま桜が何もないふりをしてくれれば、何となくずっと一緒にいられるんじゃねェか?

そんなふうに自分のことばかり考えていたけれど、本当のところは、それなりに幸せを掴み、あの頃のことを笑って話せる桜に、正面からぶつかるのが怖いだけだった。最初からずっと気持ちは一つだったのに。

「バカは俺の方だ。最初会った時から昔のことなんてなんもなかったみたいに笑ってるお前見て、女はすげーなぁって、俺ァバカみてェによ、感心してたんだ」

銀時は自嘲じみた口調でそう言って苦笑いを浮かべた。

「そんなわけないじゃん」
「ああ、そうだよな。でも俺ァずっと勘違いしてたんだよ」
「なんでも都合のいいように解釈しすぎなのよ」

膝の上に顎を乗せている桜は、心底呆れた声で鼻で笑う。

「お前が何もねェふりしてくれたからだろ? 俺が罪悪感で苦しまねェようにさ」
「……」

銀時の言葉に桜は驚いたように目を見張った。

独りにしないでと、そう縋った桜を置き去りにした事実は消えない。
それでもまた一緒にいられたのは、桜が昔のことをほんの小さな出来事のように振る舞ってくれたからだった。
 
「最初から気付いてたよ。男がいることもさ。それでも俺ァ、お前と一緒にいられるなら、んなことどうでもよかった」
「……」
「俺はそれでよかったけどお前は不安だったんだよな?」

桜は黙ったまま頷いた。

俺と別れ独りになった桜が築き上げてきた、たくさんのもの。俺を選ぶということは、それらを全部捨てるということ。
ただ離したくないとしか言えない俺が、桜に後悔してると言わせるまでずっと苦しめていたんだと、今頃やっと気が付いた。

「俺はお前を突き放すつもりなんて、これっぽっちもねェから」
「…本当に?」
「ああ 」

まだ少し複雑な表情を浮かべている桜の潮風に乱された髪を、銀時は優しく耳にかけながら尋ねた。

「なぁ。お前にとって俺は何?」
「それは……」
「何?」

言葉に詰まる桜にもう一度重ねて迫る。
 
「もう離れたくない。大事な人」
「な? 俺と同じ答えだろ?」

身体を引き寄せると桜は素直に委ねてきた。

「ずっと一緒にいてくれるの?」

腕の中から聞こえる桜の声が少し遠くに感じる。

「ああ」

確かに桜の言った通り、離したくないなんてのは俺のエゴだ。
また出会わなければ普通に嫁にいくはずだった桜に、「一生お前だけを守ってやる」と約束すらできないのだから。

たった一人を護るためだけに生きる。

今はまだできそうにない約束だ。
今はまだ。

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あきゅろす。
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