By My Side
Wingless Bird 4
翌朝早く桜を駅まで送り万事屋へ戻ってきた銀時は、玄関前に立つ招かざる来客を発見し、わざとらしくがっくりと両肩を落とした。
「何の用だ?」
「メリークリスマス」
「……」
無視して家の中へ戻る銀時を追いながら桂は当たり前のように上がりこんでくる。
「世間はクリスマスだぞ。こんな日に桜と過ごしていたとは、お前達何もないわけはあるまい。どういうことか説明しろ、銀時」
腕組みした桂が早速問い詰めてきた。
「なんでアイツといたってわかるんだよ。まさか覗き見てたんじゃねーだろうな!?」
「人聞き悪いぞ。俺はさっき駅でお前達を見かけたので先回りしただけだ」
「それも大概だろうが」
銀時は小声でぼやきながら乱暴にソファーに腰を下ろすと、
「テメェはどこまで知ってる?」
入り口に立ったままの桂に逆に問いかけた。
「どこまで? あの頃銀時お前は、戦いから逃げると同時に桜からも逃げた。それがどういう経緯で再会したのかは知らんが、今何もなかったような顔をして桜といる。違うか?」
「いや、合ってる」
銀時は足を組むと、ソファーに身体を預け頷いた。
「銀時。俺はお前がいなくなった後、一度桜と会っている」
「……!?」
予想外の桂の言葉に銀時は驚いた表情を見せた。
「お前がどうなったのか、生きているのか、死んでしまったのかを必死に聞いて回っていたそうだ。一目でいいから会いたいってな、泣かれたよ」
「……」
桜が泣いたところなんて、海で別れたあの一回しか見たことがない。泣くのを嫌っていた桜が、それでもこらえきれなかったのがあの日の涙だったくらいだ。
必死に生死を聞き回っていたという場面も、想像しようにも再会した日の淡々とした様子と上手く結び付かなかった。
「お前はこの先桜を幸せにしてやれるか? 俺はあの時の桜を知ってるから幸せにしてやれないのならば……」
「恋人でも何でもねー」
桂の表情がにわかに鋭くなる。
「どういうことだ?」
「そう言われた。アイツに」
桜の言葉は今もまだ銀時の胸に深く突き刺さっていた。
確かにその通りなのだ。桜の恋人は俺じゃない。今の二人は決して世間に胸を張れるような関係じゃない。
「俺に会わなけりゃ……アイツは嫁に行くはずだったんだとよ。今もまだ迷ってんだろ、アイツは」
「お前はどう思ってる?」
「別に今のままでいいんじゃねーの?」
「お前はそれで良くても桜はどうなる?」
「……」
そんなことは俺もわかってる。勝手なことは百も承知だ。
それでも俺から桜を手放すなんて、どうしてもできねェ。
もしも桜の幸せに俺が邪魔になるってんなら、今度は俺が捨てられる番だ。
「最後は桜に選ばせるってわけか。狡い男だな、お前は」
「そうか?」
桂はこれ以上いくら話しても無駄だとばかりに溜息をつき、そのまま帰って行った。
「お前がそんなんなら桜はどっちを選んでも幸せになれんだろう」
「お前が桜の幸せを壊してるのかもしれんな」
桂が残していった言葉の意味を考えかけたが、すぐに止めた。
そのままソファーに寝転がると桜の匂いが残っている。
もう何も考えたくなくて目を閉じた。
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