By My Side
Pretend 2
「ヅラァ…。何やってんだ、テメェは」
「ヅラじゃない、サンタだ」
「どこがサンタだ!? どこをどうとってもサンタじゃねーだろっ?」
昔とあまり変わらない風貌、昔と変わらない二人のこのやり取り。
もしかしてこのサンタ…。
「ヅラ君!?」
「ヅラ君じゃない、桂だ。って…あーっ!? もしかして桜ではないか!?」
声をかけられた桂は最初不機嫌そうに桜を見遣ったが、すぐに驚いた顔に変わった。
「久しぶりだな。っていうか銀時、これは一体どういうことだ?」
「あー? 別にどうもこうもねーよ」
面倒くさそうに明後日の方を向く銀時の横顔は、少し照れくさそうに緩んでいる。二人を交互に見つめる桂の怪訝な視線に、桜は堪らず銀時を見遣った。
「何でもいいから適当にごまかせ」
頷き返した銀時の合図を桜はそう受け取ると、思いつくままに早口でまくし立てた。
「私…あれからこっちに出てきてね。たまたま偶然銀時と会って……町に出たついでに、こうしてね、たまに会ったりしてたの」
あまりに下手な弁解に、桂は到底納得できるわけもなく黙って二人を見比べていたが、
「まぁいい。バイト中だからこれで失礼する」
と、その場を切り上げた。
「じゃあな」
「さよなら」
手を上げ桂が立ち去ると、再び二人は駅まで歩き始めた。
「驚いた。今も親交があったんだね」
「ああ。親交っつーか何か知らねーけど突然現れんだよ、アイツ。んなことより、お前ごまかすの下手すぎだろ」
呆れた声の銀時は知らない。桜が桂に言った「あれから」という言葉の意味を。
それは桜にも、そして桂にとっても苦い記憶だということを。
終戦後、生きていたけれど戻ってこなかった一人の桂は、いつだったか銀時を探して突然桜の元を訪ねて来たことがあったのだ。
「アイツは確かに生きているはずだ」
「じゃあ何で銀時は戻ってきてくれないの? 無事なんだったら私に姿くらい見せてくれたっていいでしょう!?」
「それは……俺にもわからん」
「会いたいよ。一目でいいから銀時に会いたい。会わせてよ……」
取り乱して泣き縋った私にどうしようもなく溜息をついていた桂。きっと桂の記憶の中の私は、あの時間で止まっていたはず。それが今、こうして銀時といるところを見て一体何を思ったのだろうか。
きっと馬鹿だと思ってるよね。
「どうかしたか?」
小さく漏らした溜息に銀時が反応する。
「ううん、別に」
「ヅラのことか? アイツなら鈍いからきっと何も思ってねーよ」
「うん…」
桜の気持ちとは微妙にずれた言葉を口にしてから、銀時はハッと気付く。
ガキじゃあるめーし、二人のことを隠す理由も別にねェだろ。隠さなきゃならねェ理由なんざ、俺にはこれっぽっちもねーのに。
何となく口数の減った二人はあっという間に駅にたどり着いた。向き合って普段通りの別れを交わし、いつものように桜が階段に消えていく。
そのはずが、今日の桜は突然思いついたように振り返った。
「クリスマス、仕事終わったら会いに来てもいい?」
桜の考えていることが読めない銀時は、眉を寄せ訝しげな視線を向けた。
「大丈夫なのかよ?」
「大丈夫って何が?」
「俺なんかといて大丈夫なのかって聞いてんの」
一瞬桜の瞳が不自然に泳いだのを銀時は見逃さない。周りの雑音が一気にボリュームを下げたように小さく感じ、返事を待つ時間がやけに長く思えた。
「連絡するから」
桜は銀時の問いには答えず、足早に階段の向こうへ姿を消した。
* * *
大丈夫なわけないじゃん。
帰り道の列車の中。いつものように遠ざかるターミナルを見送りながら桜は胸の中で呟いた。
再会してから二ヶ月の間、休みが合えば銀時と会い、今ではその頻度もかなり多くなってきている。そのうえクリスマスまで銀時と過ごせば、彼だって気付かないわけはないだろう。いくら互いに干渉しない関係だといっても限度がある。今まで気付かれなかったのが不思議なくらいなのだ。
「俺なんかといて大丈夫なのかって聞いてんの」
銀時の言葉が耳に甦る。
鋭い銀時のことだから、きっともう気付いているかもしれない。全部気付いていながらも、何も言わずに一緒にいてくれている。
その真意は計りかねるが、桜はただ銀時といたかった。
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