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By My Side
Pretend 1

再会してから二か月が過ぎ、文字通り元の鞘に収まった二人は、空の見えないこの部屋で相変わらず逢瀬を重ねていた。
限られた時間の中で空白期間を埋めるように身体を重ね、その後は特に意味もない会話を交わして潰す。

こういう関係って他人から見ればどう映るんだろうな?
大人の関係? 爛れた恋愛?
俺ァ煙草吸わねーけど、男が煙を燻らせていれば完璧な絵面じゃね?

暢気に寝転がりながら妄想を繰り広げる銀時に、桜は怪訝な視線を向けた。

「……何?」
「んー? 何かさー、すっかり大人の関係じゃね? 俺達」
「当たり前。紛れもなく大人なんだから」

桜は起き上がると、つまらなそうにそう言った。だが、そこで会話を途切れされるわけではなく、銀時を見下ろし続けた。
 
「でもさ、あの頃だってこんな感じじゃなかった?」
「…そうだったっけ?」
「そうだった」

銀時の髪にそっと手櫛を通しながら桜は微笑む。
桜の言うあの頃、二人が出会って三年過ごした時間。あの頃だって季節が二巡もすれば、子供なりにすっかり落ち着いて、やはり今とさほど変わらないような時間を二人は過ごしていたはずだ。

確かにあの頃と同じだ。こんな状況なのに、ちっとも甘くならない桜のそっけない話し方も、あの頃も今も嫌いじゃない。空白期間を経ても尚、気心の知れた桜とは二人でいるだけでも安らぐことができた。
日毎に桜への思いが高まっているのも事実だ。
だけど銀時は思いを胸にしまう。

「もう帰んのか?」
「うん。明日辛くなるしね……」
「今から帰んのだって大変だろ?」
「平気」

慌ただしく帰り支度を始める桜に、銀時はそれ以上何も言えなかった。

どんなに遅くなろうと桜は必ず帰っていく。
桜は気付いているのか、いないのか。肩の後ろにある赤い痣、それが理由なんだろう。



「仕事はどうなんだ?」
 
駅までの道すがら、銀時は珍しく近況を尋ねてみた。

「うーん。まぁ何とかやってるけどね」
「俺も行ってみっかな? 安くしてもらえんだろ?」

横目で反応を窺うが桜は特に動じる様子もなく、

「ストパーでも当ててみる?」

と、いたずらっぽい瞳で銀時の頭を指差した。

「マジで直る!? サラッサラになる?」
「なるよ。一瞬だけね」
「それパーマって言わねーから。何?その儚い夢は」

肝心なところは冗談でごまかし答えをはぐらかす。再会してからの桜は、ずっとこんな調子だ。

中途半端に終わった会話から気を逸らそうと辺りを見回すと、町がもうじき近付くクリスマスで賑わっていることに気付いた。駅に続く道沿いに並んだ店はどこもかしこもクリスマスツリーが飾られ、店員達は赤いサンタ衣装に身を包んでいる。クリスマスという異文化は、この数年ですっかりとこの国に根付いたようだ。

「ちょっと前まではクリスマスなんて聞かなかったよなぁ」

銀時は独り言のように呟いた。

「つーかクリスマスって何よ? 何をする日なんだよ」
「ナニする日」
「オイオイ……それ女が言っていい冗談じゃないからね!?」
「ジョークに男も女もないよ。あるのはアメリカンにブラック、ブルーマウンテン…」
「それコーヒーな」
「ま、ご馳走食べてお酒飲んで、楽しく過ごす日なんでしょうよ」

「いや、恋人同士が甘い夜を過ごす日だろう」

突然割り込んできた声に二人が振り向くと、そこにはいかがわしい看板を手にしたロン毛のサンタがいた。


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あきゅろす。
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