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放課後の音楽室
朝帰り2

昨日の今日だしな。様子見に行くくらい別に何でもねェだろ。

夕方、再び桜の様子を見に来た銀八は、桜の部屋の前で聞かれもしないのに自分に言い訳をしてから、開き直ってブザーを押した。
続けてドアをノックすると、今日はすぐに中から反応が返ってくる。

「坂田先生!」

開いたドアから笑顔の桜が顔を出した。

「調子はどうだ? あ、お前ねぇ。ちゃんと外、確認してから開けたかぁ? 物騒な世の中なんだから気ィつけろよ」
「ちゃんと見たよ」
「顔色良くなったな」
「先生のお陰。ありがとう」

昨日とは打って変わってスッキリとした様子の桜に安心した銀八は、手にしていた袋を差し出した。

「これ差し入れだ。食うもんないだろーと思って適当に選んどいた」
「先生、ありがとう!」

中身を見た桜は、「ほとんどお菓子ばっかじゃん」と笑い出した。

「俺も食べんの」
「先生も?」

桜は意味がわからずに目を丸くする。 
決して授業中には見られないその表情に思わず頬が緩んだ銀八は、ごまかすために顎元に手をやった。

「資料室の場所わかるか?」

首を傾げながら自信なさげに頷く桜に「西館の4階な」と付け足すと、

「資料室か職員室、大概どっちかにいるからさ。元気になったらいつでも遊びに来いよ。色々と聞きたいこともあるし。そん時はちゃんと手土産を持参するように」

桜が手にしている袋を指さした。

「えー!? これ差し入れじゃなかったの!?」
「いや? 俺も食うつもりで選んだ」
「うん、わかった」

桜は笑いながら頷く。

「んじゃ、週末はゆっくり休めよ。月曜は来れるな?」
「うん」
「じゃあな」

わざわざ先生が来てくれたのに。
もう熱もないんだから、帰ってしまうのは当たり前なのに。

急に寂しさが襲いかかる桜は、頭ではわかっているのに帰ろうとする銀八の顔を見ることができない。
銀八は俯く桜が目を合わせてくれるまで、黙って待ってくれているようだった。

「先生」
「ん?」
「本当にありがとう……ございました」

桜が恐る恐る顔を上げると、学校では見たことないような優しい表情を浮かべる銀八がいた。

「気ィ使わなくていいって。月曜日、学校で待ってる」

銀八の手が子供にするように桜の頭をひと撫でする。
そして、「じゃあな」と桜の顔を覗き込み、今度は返事を待たず階段を降りて行った。

「早く月曜日になればいいのに……」

閉めたドアの内側で桜は、そう呟いた。

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