[携帯モード] [URL送信]

放課後の音楽室
終業式1

終業式を終えたばかりの教室に、銀八は足を踏み入れた。

高校生活最後の学祭に、体育祭。
一見何の問題もなく過ぎていったZ組の二学期が終わり、冬休みに入ると卒業まで三年生はほとんど登校しなくなる。
この教室にZ組のメンツが全員揃うのは、あとは卒業試験くらいだ。

既に進路が決まっている生徒達は、年末年始を前にして明らかに浮足立っているのがわかるので、羽目を外しすぎないよう一言注意しておいた。
進路が決まったうちの一人である桜は、結局は学校中を駆け巡ってしまった噂のせいか、ここしばらくずっと浮かない表情だ。

いつから桜の笑顔を見ていないのだろう。
銀八は頭の片隅でぼんやり考える。

笑顔はおろか、普通に目が合うこともなくなってしまった。
もう全てが今更だ。
だけど休みに入る前に、どうしても桜ともう一度話がしたかった。
勝手でもなんでも、このまま卒業してしまうことだけは避けたい。
ただの悪あがきかもしれない。
それでも自分を抑えられないでいた。

 「あー、田中」

生徒達に解散を告げた銀八は、放課後の喧騒の中、何かのついでのような口調で桜を呼んだ。
近くにいた数人の生徒が、何だというような表情でこちらを見ている。

 「就職先からさ、書類が届いてんだ。帰りに職員室寄ってけな」

無表情だった桜が不思議そうに首をかしげ、やり取りを気にしている風だった生徒らは興味なさげな顔に戻る。
教室を出た銀八は、無様な悪あがきだと自分自身に対し嘲笑を漏らした。


 * * *



職員室にやって来た桜は溜息をつき、肩を落とした。
ついさっき職員室に呼んでおきながら肝心の銀八の姿はそこにない。
きっと資料室にいるんだとは思うが、近くにいた女教師と目が合ったので銀八の行方を聞いてみた。

 「あの、坂田先生知りませんか?」
 「そういえば見ないわね。どうかしたの?」
 「なんか就職のことで呼ばれたんだけど、また来ます」
 「あっ、田中さん! あなた就職決まったのよね?」
 「はい」
 「いろいろ大変だったと思うけど、これからは自分の力で生きていけるから。頑張ってね」
 「は、はい……」

潤んだ瞳を向けられた桜は、何だかよくわからないままに職員室を後にする。

両親がいないことを言ってるのだろうか。
あの先生、担任になったことないのに何で知ってるんだろ。

いやそんなことはどうでもいいと、桜はさっき下りてきた階段を今度は四階まで上り始めた。
途中、三階から聞こえる太鼓やシンバルの音に何だか無性に苛々してくる。
資料室に辿りついた桜は、躊躇いもせずにドアを開けた。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!