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放課後の音楽室
去年の担任1

 「おい! お前大丈夫か?!」

どれくらい時間が経ったのだろうか。
突然背中から投げかけられた声に振り向くと、土方がこちらを覗きこんでいた。

『校舎内禁煙』

それを逆手に取り、屋根のない場所なら学校敷地内どこででも煙草を口にする土方は、今も一服するために校舎を出たところのようだった。

 「また泣いてんのか?」

桜とわかるなり土方は、無神経な言葉を投げかけてくる。

 「泣いてないです」

桜は立ち上がり、内心ムッとしなが返した。

 「試験前だろ。こんな時間まで残って何やってた?」
 「ちょっと……」

ここで銀八の名前を出すわけにはいかないと、桜は言葉を濁した。

 「ちょっとじゃねェだろ。お前いつも妙なとこに一人でいるよな。またフラれたのか ?」
 「また?」

桜は冗談ぽく土方を睨んでみせた。
そんなに厳しい教師じゃないことは去年の担任なので知っていたが、学祭の時に泣いているところを見られたせいか、前より土方と気楽に話せている。

 「いや、悪ィ……」

煙草に火をつけようとしていた土方が手を止めた。
わざとふてくされたふりをしていた桜は、真剣に受け止めて謝る姿に少し可笑しくなる。
改めて火をつけ直し、ゆっくり煙を吐き出した土方だったが、不意に改まった様子で口を開いた。

 「なぁ、田中」
 「何ですか?」
 「もうあきらめろ」

駐輪場に取り残された自転車を取りに向かっていた桜は、思いがけない言葉に足を止めた。

 「え!?」
 「見てたんだよ。学祭ん時」
 「え? 何を?」
 「だから。お前と……坂田先生を、だ」

土方が言いにくそうに銀八の名を出すと、再び胸の痛みが襲ってくる。

 「何があったかは知らねェし別に聞くつもりもねェけどよ。お前はフラれたって自覚があんだろ?」 

目を見て聞いてくる土方に桜は黙って頷いた。

 「なら、あきらめろ」

はっきりと言い放ったその言葉は、同じ教師として銀八の気持ちを代弁しているように聞こえる。
そりゃそうだろう。
教師と生徒。年だって離れているし、叶わないのが普通なのだから。

 「とっくにあきらめてるよ。私がバカだっただけだから。一人で勘違いしちゃって……」
 「そうか。じゃあ余計なことだったな」

笑いながらあっさりと返され、少々拍子抜けした土方が安心して立ち去りかけたその時。
急に桜は顔を覆って子供のように泣き出した。
一歩片足を踏み出していた土方は、驚いて振り返った。

 「おい…?」
 「わかんない…。何か急に…ごめんなさい…」

普段の様子からは想像もつかないほど、子供のようにしゃくりあげ、なかなか泣き止まない桜に、距離を保っていた土方は少しずつ#近付いていった。
桜の肩に手を置き、その位置からあともう一歩踏み出す。

 「余計なこと言って悪かった」

たかがガキの惚れた腫れたじゃねェか。

普段の自分なら相手にもせず、さっさと立ち去ったはずなのに。
そうできないのはきっと、桜への同情心のせいだろう。

『私、両親いないんです。亡くなりました』

去年の面談で桜は、あっさりとそう言ってのけた。
自分はその時何て返しただろうか?
おそらく気の利いたことなど何も言えず、ただ固まっていただけだった気がする。

アイツならどうした……?

目の前の桜に視線を移す。

下手な慰めなら、ない方がマシか。
結果がこれじゃねェか。

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あきゅろす。
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