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放課後の音楽室
学祭1

学祭本番。
コスプレ効果は大きく、Z組の焼きそば屋台は大盛況のうちに幕を閉じた。

 「カンパーイ!!!」

片付けを済ませた生徒達は薄暗くなったそれぞれの教室に集まり、缶ジュース片手にお互いを労い合う。
桜も充実感を噛み締めていると、突然乱暴に教室の扉が開かれ、

 「おーい、みんなー! 銀八連れてきたぞー!」

数人の男子生徒らに引きずられるようにして、銀八が教室に現れた。

 「先生ー! どこ行ってたのー!?」

次々と生徒らの声が飛ぶ。
学祭の間、銀八は一切手伝いをせずに「売上に貢献してやる」と焼きそばを一日二皿、二日で計四皿だけ買って、ずっとどこかへ姿を消していたのだ。

銀八が輪の中央に引っ張り出されると、急に教室が静かになる。
みんな銀八の言葉を待っていた。

 「えー、お疲れさん。焼きそば美味かったぞ」

テンションの上がっている生徒達は、たったそれだけの言葉にもライブ会場さながらの歓声を上げる。

 「お前らにとっては高校最後の学祭だったわけだけど……まー大成功で良かったな。これで終わりじゃねェから、また気ィ入れ直して頑張れな」

今度は一転してしんみりとしたムードが漂った。
まるで卒業式のように。
そんな空気を打ち破るようなタイミングで、スピーカーからノイズ混じりの放送が流れてきた。
学祭のラストを飾るキャンプファイアーの案内に、Z組だけでなく他のクラスからも歓声が響きわたり、皆慌ててグラウンドへと飛び出して行く。

 「あー、桜」

周りの勢いからワンテンポ乗り遅れて教室を出ようとした桜を、銀八が呼び止めた。
校舎内を走る生徒の足音が遠くに消えていき、開いたままのドアの向こうを行き交う生徒はもう誰もいない。
二人はあっという間に薄暗い教室に取り残された。

 「大活躍だったな」

銀八は小さく笑って言った。

 「うん。楽しかったよ」
 「そうか」

軽く頷くと桜に背を向け、窓際に近付いていく。
話をするのは夏休みに食事に行った夜以来だ。

ほとんどの生徒がグラウンドに集合してい賑やかな歓声は二階にまで届いている。
窓の外を見下ろしていた銀八は、振り返るとまた口を開いた。

 「先生、安心したわ。友達もたくさんいるみてェだしな」

さっきまで薄暗い程度だった教室はあっという間に陽が落ち、今は暗くて銀八の表情もよく見えない。

 「…もう、大丈夫だろ?」
 「……」

主語も何もない言葉。
だけど桜にはすぐに意味がわかった。

俺が特別扱いしなくても、もう大丈夫だろ?

きっとそう言いたいのだと。

キーンと不快な音を響き再び放送が入ると、複数の笑い声がスピーカーから響いた。
アナウンスしている生徒もつられて笑っているのか、時折つっかえながらグラウンドへ集まるよう呼び掛けている。
Z組に残っている二人には場違いな放送は、最後に笑い声を残してプツリと消えた。

もうあきらめはついてるから。

桜は泣かないように奥歯を噛み締めた。

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