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放課後の音楽室
新学期

寂しいならいつでも付き合ってやるなんて言っていたはずが、結局残りの夏休みは一度も銀八からの連絡はないまま過ぎていった
新学期が始まって二週間、二人はそれぞれ教師と生徒として、休み前と何ら変わらなく顔を合わせる毎日を送っていた。

夏休み気分が抜けきれない内に学祭が近付き、Z組だけでなく学校全体が落ち着きのない異様なムードに包まれている。
一、二年の時はほとんど参加していなかった桜だが、今年は違った。
高校生活最後の学際に熱気の高まる周囲につられ、放課後毎日のように準備のためクラスメートと居残っていた。
おかげで落ち込みそうな気持ちも幾分か紛らわせることができた。

 「やったー! 完成!!」

学祭二日前にようやく完成した手作り衣装に、教室では歓声が上がった。
Z組の出し物は焼きそば屋台だ。
だが集客効果を狙い、呼び込み担当は男女共にメイドコスプレという、ありきたりすぎる悪ふざけが計画されている。
当日メイド服姿を披露するのは、今回の出し物を企画したクラスでも目立ちたがりの男女と推薦された数人で、桜は後者の中に入っていた。

 「おいおい、先生は焼きそば屋台って聞いてたけどー? いつオカマバーに変わったんだよ」

早速衣装合わせが始まった途端、滅多に顔を見せない銀八が珍しく様子を見に教室にやって来た。
先に着替え終えた男子生徒のメイド服姿を見るなり、呆れた声で感想を口にする。

 「先生もやる?」
 「おーい、ふざけんな。誰がやるか!」

賑やかな教室に着替え終えた桜ら女子が戻ってくると、大きな歓声が沸き上がり、振り向いた銀八は目を見開いた。

これは反則だろ…。

思わず視線が釘付けになる銀八に、同じくメイド服に身を包んだ女子の一人が近寄って感想を求めてくる。

 「ねぇ、先生どう? カワイイ?」
 「ああ、カワイイんじゃねェの? つーかあっちは要らねェだろ」
 
慌てて桜から目を逸らし、適当に女装姿の男子に話題を移した。

 「えー!? 沖田君超カワイイじゃん。いろんなタイプが揃ってる方がいいんだって。でも一番は桜ちゃん! ね? カワイイでしょ?」

桜が目の前に押し出されると、つられて男子生徒の視線が集中するのがはっきりとわかる。
一瞬だけ気まずそうな表情を見せた桜だったが、クラスメートの手前だ。

 「先生、どう?」

すぐに笑ってポーズをとってみせる。

 「あぁ、完成度高いな……」

けれど桜はずっと銀八から微妙に視線を逸らしていて、一度も目が合わないまま生徒の輪の中に戻っていく。

そういや桜は前に、あまり感情を表に出さないとか言ってたか。

それに比べて平静を装っているつもりが、挙動不審になっている大人の自分。
生徒達は何も気にしていない様子で、携帯カメラで撮影会を始めていた。
コスプレメンバーが身体を寄せ合う姿を横目で見ると、両脇を男子に挟まれた桜が笑顔でポーズを決めている。

ったく、こいつらは自由でいいよな…。

銀八は小さく溜息をつくと、そっと教室を後にした。

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