放課後の音楽室
ドライブ2
「何にしよっかな?」
「遠慮しないでしっかり食えよ」
「冷やしうどんがいい」
「なんでそんなに麺にこだわるんだよ。肉を食え、肉をよォ」
既に呼び出しボタンに指を置いている銀八は、呆れた声で言う。
「夏バテしてるからヤだ」
「麺ばっか食ってるからバテんだよ。だから精をつけてやろーと思って連れてきてやったんだろーが」
待ちきれず店員を呼んだ銀八は、夏バテの桜に勝手にハンバーグを注文してしまった。
「絶対全部食べ切れない……」
「いいんだよ。残りは俺が食うから」
テーブルの向かい側に座る銀八は、早速煙草に火をつけた。
この日初めてゆっくりと向かい合い、桜は見慣れない私服姿の銀八を観察してみる。
何か休日のお父さんみたいな格好だな。
それでも背が高くスタイルがいいので、桜には素敵に映った。
次に自分達は周りからどう映っているのかを考えてみた。
こっちはどう見てもまるっきり高校生で、せいぜい大学生くらいにしか見えないし、銀八もやはり年相応に二十代後半にしか見えない。
教師と生徒という関係まではわからなくても、さすがに恋人同士には見えないものかなと銀八を見る。
「ねぇ先生」
「ん?」
「先生、今までこうして生徒と食事したことある?」
「ばったり出くわして、とかはあったな。何か奢れー! って強請られてよォ。ありゃー恐喝だ。集団恐喝」
「ふーん、そっか」
集団という言葉に桜は内心ホッとした。
自分を棚に上げ小さなヤキモチを妬いてることが、自分でも少し可笑しく思える。
「先生って大変だよね。栄養状態まで気にかけなきゃいけない生徒もいるし」
「え、何? 気にしてんの? お前の場合はレアケースだろ。別に俺もしょうがなくやってるわけじゃねェし」
灰皿にポトリと灰を落とした銀八は、真っ直ぐな瞳で桜を見た。
再び煙草を口にし、煙を吐き出してから続ける。
「俺だってどうせ家にいてもまともなもん食っちゃいねェしな。お前も一人でいたら色々ストレスも溜まるだろ。ちょうどいいじゃん」
「うん」
「しょうがなくやってるわけじゃねェし」という言葉にひそかに喜び、「ちょうどいいじゃん」で落とされる。
年の差、十歳程。
先生からすれば私は子供でしかない。
私が小学生を相手にするようなもので、先生にはきっと深い意味は何もない。
そう自分に言い聞かせるけれど。
気持ちは理屈などお構いなしに募っていき、銀八の言葉を都合よく置き換え、淡い期待を抱いてしまう。
今までにも優しい先生はいたけれど、こんなにドキドキさせられる先生は銀八が初めてだった。
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