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放課後の音楽室
期末試験

期末試験の最後の教科。
Z組の教室に担任の銀八が試験官として現れると 、近くの席の生徒と談笑していた桜は、慌てて鞄に教科書をしまい込んだ。
 
 「早く机の上きれいにしろよー」
 「静かにしろー」 

銀八は教室を見回して声をかけながら、手早くテスト用紙を列毎の人数に分けていく。
テスト用紙を配りつつクラス全体を見回してるつもりのはずが、視線は何度も桜にばかり向かう。
こんなふうに誰も気付くことのない程度の特別扱いを、ずっと続けている。

あれから桜は銀八が言った通り、あっという間にクラスに馴染んだようで、授業中に近くの席の生徒とコソコソと談笑している姿がよく目につくようになった。
そんな時の桜は普通に明るく高校生らしくて、ついつい銀八は目をつぶってしまう。

 「はい、始めー!」

チャイムと同時に銀八の声が響き渡り、クラス中が一斉にテスト用紙を表に返した。
普段は騒々しい生徒達が黙々と問題を解いている机の間を、縫うようにゆっくり歩いて回る。
この退屈な試験官の仕事が銀八は嫌いだった。
ざっと教室を一回りし終えた後は、教壇に上り黒板を背に立つ。
桜がよく見える場所。

どうせ誰も見ちゃいねェしな。これくらい役得だろ。

真剣に問題を解いている桜の表情が時々変わる。
少し眉間を寄せて考え込んでいたかと思うと、一瞬で晴れやかな表情に変わり、口元に小さく笑みを浮かべ鉛筆を走らせたりする。

おーおー、真面目に解いてんじゃん。

銀八は緩みそうになる頬を撫でて収めた。

一、二年の間は受け持ちではなかった桜の事を、綺麗な子だなと何となく覚えていたが、今年初めて担任となって授業を受け持つうち次第に、桜のことばかり無意識に見ている自分に気が付くようになっていた。
窓からの光を浴びた髪がハチミツ色に輝くのを見ると、触れてみたいとさえ何度も思った。
そんな自分の気持ちを本格的に自覚し認めたのは、間違いなく桜の欠席が続いたあの時だろう。

鉛筆を持つ手が止まり、一息ついた桜がふと顔を上げた。
一瞬目が合った気がしたが、すぐに桜は何もなかったようにテスト用紙に顔を戻す。

桜はいつもこうだ。
懐いてくれたように思えても、素知らぬ顔で過ぎる時もある。

わかんねェな。女はわかんねェ。
いくらガキでも所詮女にゃ違いねェからな。

心の中でそんなことを考えながら、残り時間を確認し再度ゆっくりと教室を回り始める。

桜への感情は、明らかに他の生徒達とは違い特別なもの。
それは自分でもちゃんと自覚している。
自分の気持ちに気付けないような年でもない。
そして、この感情だけは頭でどうこう考えて収まるものではないことも知っている。

今はどうすることもできない。

それもちゃんとわかっていた。

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