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放課後の音楽室
二人の秘密2

「お前、別に嫌われてるとかいじめられてるとか、そんなんじゃねェだろ?」
「わかんないけど」
「いや、大丈夫だろ? そーゆーのは教師から見ても何となくわかるもんだ」
「本当に?」
「ああ。たぶんみんなお前のことを、一人が好きなんだろうなって思ってんだよ。普通に笑ってりゃ、あっという間に馴染めらァ」
「一人はイヤだよ」

桜は即座に否定した。

本当は一人なんか好きじゃない。
独りでいたいわけがない。
そのことに先生がいたから気が付いたんだ。

「わかってるよ。俺ァ、ちゃんとわかってるけどよ…」

銀八は言葉を区切り、一呼吸置く。

「周りは知らねェだろ?」
「うん……」
「大丈夫だ。土方先生にノート借りれるくらいだからよ」
「……」
「……」

目を見合わせた二人は同時に吹き出した。

「お前、自分で言いに行ったの?」
「ううん。授業中に職員室来いって言われた」

土方が生徒間だけでなく、先生同士でも気難しいイメージを抱かれているのかと思うと、桜は可笑しくなってくる。

「あっ、そうそう」

ひとしきり笑い終えた銀八は思い出したように切り出した。

「クラスに馴染むのは全然いいんだけどな……」

少し声のトーンを落として桜の側へと身体乗り出してくる。

「こないだお前んとこ行ったことはさ、内緒にしてくれな」
「……」
「あのあとな、昨日と同じ服だー、朝帰りだーつって、もう大騒ぎだったんだよ」

銀八は「参った」と髪をくしゃくしゃさせて笑うが、朝帰りなんて聞かされた桜は急に恥ずかしくなってきた。
あの晩は熱のせいであまり意識することもなかったが、顔が熱くなってるのが自分でもわかる。

「ま、そーゆーことだから、よろしく頼むわ」

静まらない気持ちを抑えるのに必死で、黙って頷くのが精一杯。
だが銀八は特に気にするふうでもなく、暢気にチョコをつまみながら桜を見た。

「それとさぁ。まぁ無理にとは言わねェけど教えてもらえる? 家庭の事情っつーのを」
「うん」

別に隠すことではない。
去年の担任には話しているし、銀八にだってちゃんと一学期末の面談で話すつもりだった。

「あのね、私……家族がいないんだ。小学生の時に車の事故でね、私だけが生き残っちゃったの」
「そっか」

銀八の表情は変わらないが、その声は何だか固い。

「それでね、今年の春からやっと一人暮らしを始めたんだけど、なんかいろいろ慣れなくて体調崩したのかなぁ…?」
「お前の話、間の時間が抜けすぎなんだけど……」

呆れたように軽く鼻で笑った銀八だが、すぐに真顔に戻った。

「うん……」

小さく笑う桜を見て銀八は、再び煙草を取り出すと、

「ま、いいわ。だいたいはわかったから」

灰皿を手に立ち上がり窓際へと移動した。
銀八の動きを追った瞳は、素早く火をつける大きな手に引き付けられる。

煙草がお菓子の煙草チョコみたい。

そんな小さなことにドキドキしていると、窓の外に煙を吐き出した銀八が振り返った。

「寂しくねェか?」
「……」

たった一言に桜は胸がしめつけられる。

「寂しくないよ」
「そうか」

半分本当で半分強がり。
けれど銀八は何も言わずに頷いた。

「先生、私一人暮らしのこととか家族のこととか色々ね、高校入ってからは周りに内緒にしてるんだ」
「うん」
「変な目で見られるのイヤだし」
「ああ、確かに信用できるヤツ以外には言わねェ方がいいだろうな」

悪い誘惑もあるだろうしなぁ。

銀八は心の中でそう思ったが、それは言わないでおいた。

「先生、内緒にしてくれる?」
「ああ」

さっき銀八は、この場所のことを内緒にしてくれと言った。
そして今度は自分が秘密を打ち明けた。

最低限担任には伝えておくべき話であって、秘密で何でもないけれど。
それでも桜には、銀八と自分が何か特別な関係に思えて少し嬉しかった。

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