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放課後の音楽室
月曜日2

職員室に着くと銀八はなかったが、桜の姿に気が付いた土方が顔を上げた。

「ああ、来たか。なんか痩せたんじゃねェか? 大丈夫だったか?」
「はい」
「そうか。で、コレが渡してなかったプリントな。あー、休んでる間のノートはどうした?」
「まだ全然何も……」
「テストが近いからな。誰かに写させてもらえるか?」
「……」

無言の桜に少し困ったように笑った土方は、「コピー取るからちょっと待ってろ」と職員室の隅にあるコピー機に向かった。
土方の後ろ姿を見て申し訳ない気分になった桜は、目の前のデスクに視線を移した。

やっぱ綺麗に片付いてるなぁ。

イメージ通りに整頓された土方のデスクの右隣が銀八だ。
なんとなく銀八のデスクが気になり、チラチラと見てしまう。

あれ、案外綺麗…。
いや違う。片付いてるんじゃなくて積み重ねてるだけか。

綺麗に積み重ねられた本やファイルの一番上、水色のファイルに目が止まった。
背表紙には「3Z住所録」とある。
きっと銀八は、これで住所を調べて様子を見に来てくれたんだろう。
そう思うと銀八との繋がりを見つけたようでうれしくなる。
その反面。
たった一枚のカード、それもクラス三十数人分の一枚。
それだけしか繋がりがないという現実に、胸を痛めている自分がいる。

「待たせたな」

コピー機から戻ってきた土方がプリントを差し出した。

「これちゃんと写して、わからないところがあれば聞きに来い、な?」
「はい、ありがとうございます。それじゃ、失礼します」

頭を下げて背を向けた途端。

「あー、田中」

土方に呼び止められ、桜は慌てて振り向いた。

「何か困ったことがあったらちゃんと担任に相談しなさい。俺は今年担任じゃねェけど、相談ならいくらでも乗ってやるから」
「はい。わかりました」

怖い先生だと思われているが人気もあるのがよくわかる。
温かい言葉に桜は微笑んだ。



 * * *



廊下に出た桜は、この後銀八を探して資料室まで行くべきかどうか、また迷って立ち止まった。

この分じゃいつまで経っても先生に会えないや。
けど資料室まで行くのも何だかなぁ…。
でもお礼を言うなら早い方がいいしな。

悩みながらも足は四階の資料室へ向かって階段を上り始めている。

二階は三年生の数教室。
三階は音楽室、視聴覚室、その他の特別教室。
そして四階は資料室を含めた、いくつかの謎の空き部屋。
階段を上るごとに辺りは静かになっていく。

今まで資料室の存在は何となく知っていたが、そんな場所に銀八がいることを桜は全く知らなかった。
階段を上りきり、左に曲がって突き当たりが資料室だ。

外からは運動部の掛け声と、階下からは吹奏楽部のバラバラなパート練習が聞こえるだけで、フロアに人の気配は全くない。
廊下の端、資料室と表示された扉の前で桜は立ち止まった。

本当にここに先生がいるのだろうか…?

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あきゅろす。
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