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旅立つもの
3

* * *

線路沿いをひたすら歩き出した二人は、最初の夜は所持金を使って夜を明かした。
桜の兄からのお金をできれば使いたくなかったが、日が暮れ気温が下がってくると身動きがとれず、もうどうしようもなかったのだ。

桜は野宿すればいいと言った。
先のことは何一つ見通しが立っておらず、今夜一晩だけとはいかないかもしれないのだから、無理してお金を使うことはない、と。
確かにその通りだが、銀時からすればまた事情が違ってくる。

お前の身体が心配なんだと、どれだけ言っても平気だと言い張る桜と最後は言い争いにまで発展した。
どうしても折れるわけにいかない銀時は、とても正気じゃ言えないような甘い言葉を口にしてでも頑張った。

「俺ァお前に野宿なんかさせたくねーんだって。俺もずっと野宿してきたからわかるが、生易しいもんじゃねェよ。大事な女にそんなことさせられねェ。男なら当たり前だ」
「明日からのこたぁ、ゆっくり落ち着いて考えりゃいい。とにかく今夜一晩、桜のためなら惜しい額じゃねェよ。な?」

すぐに照れた笑みを浮かべた桜は、今思い返しても相当単純だといえる。
とにかく一泊。
桜のために必死だった銀時は、あまりに久しぶりの布団の感触に、気を失うように眠りについた。
疲れていた桜もすぐに眠ってしまい、これからのことをゆっくり話し合うつもりが、気付けばもう翌朝だった。


二日目も二人は線路沿いをひたすら歩きながら、今晩からどうしていくのかを真剣に話し合っていた。
桜の意見は、手当たり次第に頭を下げていけば、いつか助けてくれる人に出会えるんじゃないかという、とても楽観的なもの。
確かに桜一人なら、もしかすれば手を差し伸べてくれる人間もいるかもしれない。
だが世の中には、親切に見せつつ下心だらけの卑怯な人間もたくさんいて、きっと桜はそれを見分けることはできないだろうと銀時は内心思う。
どっちにしても今は二人連れだ。
腰に刀を携えた、血の匂いの消えていない若い男に宿を貸すようなお人好しなんて、そうそういないだろう。
 
「正直にこの状況を説明したらわかってくれる人はいるって」
「素性も知れねぇ奴らに協力するようなお人好しがどこにいるかよ」

気怠そうに答える銀時に、桜は足を止めて振り返った。
真っ正面から向き合われ少し気後れする銀時に、苛立ったように溜息を吐いた。

「昨日からそうやって反対ばっかするけど、じゃあ他に何かいい考えでもあるの?」
「いや……、まぁ何とかするつもりだけどさ」

刺々しい口調で問われると曖昧な言葉しか返せなくなる。
そんな銀時を桜は更に真っ直ぐな瞳で問い詰める。

「何とかって? じゃあ今晩はどうするつもりなの?」

また前日と同じような言い争いが始まった。
いや今日はもっと厄介だ。
今晩こそはお金を使わず済むように、何とかしてこっちが良い案を出さなければいけないのだから。

とはいっても線路沿いに広がるのは、民家がポツポツとあるだけの何もない景色。
辺りを見回し小さな溜め息を漏らすと、急に桜はいたずらっ子のような笑みを浮かべて言った。

「大丈夫だから。私が上手く話すから。そのかわり銀時はあんまり喋らないで無口を装ってよね」

少し先にある民家を見遣りながら随分と自信ありげだ。

「なんか秘策でもあんのか?」
「ないよ。でもわかってもらえるように話してみる」
「知らねェぞ? どんな人間がいるかもわから
ねェのによ」
「大丈夫。だって銀時が守ってくれるでしょ?」

にっこりと笑う桜に思わず息を飲む。

まいった。
そんな顔で素直に頼ってこられりゃ、折れるしかねーだろ。

桜の好きにさせてやって、俺はただ桜を護りゃいいか。

そんなふうに思えてくる。

「ったく、しょうがねェなぁ」
「任せて」

桜は力強く頷いた。

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