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旅立つもの
7

食材は充分に揃っているし、そろそろ夕飯の支度でも始めようか。
ちょうどそう思ったところで、外から大きな足音が近付いてきた。
広い歩幅といい、歩くテンポといい、今度こそ間違いない。

先に中から扉を開けて驚かせてみようかと、桜はそっと玄関に向かう。
笑みを浮かべドアノブに手を伸ばしたが、銀時が外からドアノブを回す方が少し早かった。

「ただいまー」
「おかえり」

通りすがる瞬間、ぽんと頭に触れてくれる。
この瞬間が今も嬉しくてたまらない。
生活が落ち着くにつれ、じわじわと幸せが染みてくるようだ。

「何だ? この箱」

玄関に置いたままの箱に銀時が反応を示した。

「あー、さっき近所の人が持って来てくれたの。銀時によろしくって」
「ふーん。オッサン来てたのか」

近所の人としか説明していないのに、銀時は誰か検討がついているようだ。

「野菜いっぱいだよ。何か食べたいものある?」
「別に何でもいいわ。汗かいたから先シャワー浴びてくるな」

機嫌悪い? それとも疲れてる?
風呂に向かう後ろ姿に桜は首を傾げる。
早く会いたかっただけに肩透かしにあった気分だが、大概は桜の気のせいで銀時からすれば特に何の意味もないことがほとんど。

そんなに口数が多いわけではないし、素っ気ない物の言い方も普段から。
いい加減こんなもんだと慣れなきゃいけない。
気にしないようにと自分に言い聞かせながら、桜は台所に向かった。

森で過ごしていた頃と一緒。
銀時は何も変わっていない。
素っ気ないし口も悪いし、でもちゃんと優しい。

それなのに、こんな感じでいいのかと思うことがある。
小屋がこの部屋に変わり、生活が便利になっただけなんじゃないかと思うことがある。
それは本当に大きな変化だというのに。
少し物足りなく感じることもあるなんて、森で会っていたことを思えば何て贅沢で幸せな悩みだろう。

「あーすっきりした。何作んの?」

風呂から上がった銀時は明るい声で台所へやって来た。
冷蔵庫からいちご牛乳を取り出すと、いつものように紙パックのまま口飲みし始める。

「うーん、まだ悩み中」
「ああ、そう」

唇の端を汚したままいちご牛乳を冷蔵庫に戻すと、すぐに奥の部屋へ行ってしまった。
桜が振り返ってみると、寝転がったまま腕を伸ばしてジャンプを取ろうとしているところ。
ジャンプに手が届くと仰向けに転がり足を組む。
ここから見える姿はいつもの銀時そのものだけど…。

何となく、本当にちょっとした勘だが、やっぱり銀時の様子がおかしい。
怒っているような気がする。

不機嫌なら何か銀時の好きなものを作ろうかと考えて、桜は手を止めた。
何でも食べてくれるけど取り立てて彼が好きなものって何だろう?
強いて言えば甘いもの?
いつも何がいいって聞いても「何でもいい」としか返ってこないので、考えてもわからない。
じゃあ甘いデザートでも買いに行こうか。
後ろで黙っている銀時と過ごすのもしんどいので、気分転換になればいい。

おかしいのは自分の方かもしれないと、桜はふと思った。
今日は一人で待っていた時から銀時に甘えたくてしかたがなくて、だから余計に銀時の態度が冷たく見えるだけなんだろう。
きっとそうだ

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あきゅろす。
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