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旅立つもの
4

陽が傾き始めると河原に続々と見知った顔がやってきた。
その誰もが場所取りのお礼にと酒やつまみを差し入れてくれたのは良かったのだが、昼間の暑さで渇いた身体をアルコールで潤そうと一気に呷ったのが間違いだった。

「銀時?寝てるの?」

桜の声で意識が戻ったが、桜が来てくれたと思うと気が緩んでなかなか目を開けられない。

「んー…」
「あー! もう空けてんじゃん。この酔っ払い!」
「悪ィ悪ィ…」

桜はぶつくさと何やらこぼしながら、側に腰を下ろした。
まだ朦朧としている銀時が手探りで桜を確認していると、そっとその手を握り返してくれる。
辺りは随分と騒がしくなってきたが銀時はやけに心が落ち着いていて、このままもう一眠りすることにした。
贅沢をいうなら膝枕をお願いしたかったが、生憎周囲は顔見知りだらけなので遠慮しておくことにする。


桜が誰かと話している声が、ぼんやりと聞こえてくる。
何を話してるのか内容まではわからないが、それが却って子守唄のように耳に心地良い。

ん? 馬鹿?!
誰のことだ、このヤロー。

悪口だけは都合良く拾ってしまう耳に、銀時は目を閉じたままニヤリと口角を上げた。

弾けるような笑い声。
桜のお喋りはまだまだ続く。
それにしても楽しそうによく喋っている。

やっぱり桜はこうして外に出てる方が合っているのだろう。
近頃は笑顔が増えて元気になったように見える桜に、銀時は安心していた。

女は笑顔でいる方がいいに決まってるし、惚れた女なら尚更だ。

いつの間にか酔いが醒めてきたのだろう、銀時は少しずつ思考が働くようになってきた。
そろそろ起きるかと、大きく伸びをする。

「よぉ、銀時。目ェ覚めたか?」
「ったくよォ。寝てる人間の横でべちゃくちゃとうっせーんだって。聞こえてたぞ? 誰が馬鹿だ」
「寝てたくせにそれだけは聞こえるのな。馬鹿って自覚あるんじゃねーか」
「あーもう煩い、煩い。とっとと向こう行けよ」

片手で追っ払うと、男は桜に手を振って自分の場所へ戻って行った。

「ひどーい」
「ひどくねーよ。俺は安眠を邪魔されたんだからな」
「何が安眠? ただ酔って潰れてただけでしょ」
「そんな言い方ねーだろ。俺ァ朝からずっとここに居たんだからな。そりゃ酒も呑みたくなるってもんだろ」

起き上がるとまだ少しくらっとする。

「はいはい、そうだね。朝からご苦労さまでした」

軽くあしらいながら桜は、散らかった酒瓶を片付けていく。
綺麗になった敷物の上に、まだ空けていない酒瓶やおつまみが新たに並べられると、途端に花火が待ち遠しくなってきた。

「花火、楽しみか?」
「うん。もちろん!」

機嫌良い桜の返事に、銀時は満足気に微笑んだ。

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