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旅立つもの
11

明かりが消えると想像以上の暗さだった。
いつもならすぐに目が慣れて、うっすらと物の輪郭が浮かんでくるのに、今夜は開いた目に何も映らない。
桜はたった数秒で「灯りをつけて」と根を上げそうになった。
もちろん銀時は特に慌てる様子もない。
「怖いか?」と、桜の肩に手を伸ばして笑った。

「停電だと、ここまで暗くなるんだね」
「これでも森ん中よりはだいぶマシだろ」
「そうだろうね」
「ああ。黒に黒を重ねた、みてーな…」

途中で銀時は息をつめた。
真っ暗で何も見えないけれど、銀時がどんな顔をしているか桜にはわかる。

出会う前の、地獄だと言っていた頃の事を口にする時はいつも、一切の感情を閉ざしたような無表情に変わってしまう。まるで初めて出会った頃のように。
そして次第に、痛そうで辛そうな表情を取り戻していくのだ。

「銀時、灯りつけようよ」

話を変えようと桜は銀時の腕を探り、その頬に触れた。

「なに? 怖ェの?」

銀時の軽く馬鹿にしたような声に桜は、頬を膨らませる。

「だって何にも見えてこないんだもん。怖いよ」
「俺はさ、今はお前が横にいるから全然怖くねーわ」
「前は怖かったの?」
「今思えばな」

地獄よりマシだと言い聞かせながらも、本当はまだ地獄から抜け出せていなかったのだと、今ならわかる。
そして、もし桜と出会えていなかったら、もし桜と森で別れていたら。
きっと今も地獄を彷徨い続けていたのだろうと、銀時は思う。

さっき桜がくれた、出会えて良かったという言葉こそ、本当は自分が言わなければならない言葉だ。
そんな柄にもない言葉、普段なら到底言えそうにもないが、さっきまでの激しい雷雨に気持ちが高揚しているのか、思わず口が滑りそうになる。

「銀時、変なこと言ってもいい?」

不意に桜が切り出したので、銀時は出かかった言葉を飲み込んだ。

「なんだよ、改まって」
「うん、あのね。私達が出会って今こうしてるのって奇跡だと思う?」

こんな事を言い出すなんて桜にしては珍しい気がした。
顔が見えないからそう思うだけだろうか。 出会って良かったなんて言葉も、今更ながら違和感を感じてくる。

「どうかしたのかよ。珍しくねーか? 桜がそんなこと聞いてくんの」
「そうかな? …いや、やっぱそうだよね。この間ね、柄にもないんだけど、奇跡について考えてたから」
「奇跡についてって、お前どこまで深いとこ掘り下げてくつもりだよ?」

意外な答えに吹き出しそうになったが、毎日暇を持て余しているだろう桜を思うと、少し哀れにも思えてくる。
せめてもと、奇跡なんて考えたこともないような事柄に思考を巡らせてみた。

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あきゅろす。
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