旅立つもの 7 急に黙り込む銀時を横目で見遣って、男はポツリと言った。 「なぁ、銀時。この間は悪かったな」 「何が?」 「いやぁ、俺が言ったこと気にしてた風だったからさ」 この男が言ったこと? ああ、あの事か。 そういえば、俺と桜が一緒になるように見えないとか何とか言ってたな。 その後の衝撃ですっかり忘れていたし、男が気にするほどには当の本人は気にしていなかった。 確かに男の目に二人がそう見えたとして、それは別に傷つくようなことでも、咎めるようなことでもない。 「別に気にしちゃいねーよ、何も」 「そうか? ならいいが…」 「一緒になるとかならねーとか、そんなことよりも、テメェで気付いてねーだけで何でも顔に出てんのかって…そっちの方がショックだった」 今この場で全てを話すことができなくても、根掘り葉掘り聞いてくるような男じゃない。 そんな信頼感が銀時の口を軽くさせる。 或いは。 年長者の懐の広さに甘え、少し楽になりたい。 そんな気持ちもあったかもしれない。 充分な説明もせず小出しに吐き出した胸の内に、男は黙って耳を傾ける。 ほんの少しの沈黙の後、男は口を開いた。 「気にするこっちゃねーよ。女の前じゃ男の嘘なんざ、バレるためのもんだからな」 あまり深刻にならないよう、わざと軽い口調を選んでくれている。 その気持ちが銀時は嬉しかった。 「それにな、嘘や隠し立てに関しちゃアッチは何枚も上手だぜ? アイツら、しれっとした顔で何枚も手札を持ってやがるからな」 「経験上、か?」 「ああ。怖ェもんだ」 ニヤリと笑う男に笑い返すと、何となく心が軽くなった気がした。 何の解決にもなっていないが、それでいい。 笑って帰れりゃ、それでいいのだから。 「さ、そろそろ下りるぞ」 「ああ」 立ち上がった途端、いつの間にか強くなった風にバランスを崩されそうになる。 慎重に梯子を下りながら、今日は何故か早く桜に会いたいと思った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |