「殺さなくてよかったの?」
「あぁ、続きが聴きたくなったでござる」
「珍しいこともあるんだね」
万斉のバイクに乗り、目的地へと向かう。先ほど、監察の彼を刺した時はまだ辺りは夕日に染まっていたが、今はもう薄暗い。計画通りにいくと、近藤さんは暗殺され、伊東さんも死ぬ。つまりあたし達にとって邪魔な真選組は消える。哀れな男だ。本当にあたし達と上手くやっていけると思っていたのだろうか。
「もしやさっきのが主の知り合いか?」
「?ううん、」
「でも何やら主のことを知っていたようだったでござる」
「きっと前真選組に行ったときに見たんだよ」
「そうでござるか」
今日で近藤さんも、十四郎も、総悟もみんな死ぬ。あたし達の手によって。大丈夫、覚悟はできている。
「……万斉、」
「何でござるか」
「もし、あたしが死にそうになっても見捨てていってね」
「そんなことをしたら拙者が晋助に殺されるでござるよ」
彼らと刀を交えて負けるつもりはない。でも勝てる自信もない。あれからあたしも必死で修行した。でもきっとそれは彼らも同じこと。もし、あたしが本当に死んだら晋助はどうするのだろうか。怒る?それとも悲しんでくれる?何とも思われなかったらショックかも。最後に抱き締めてくれた晋助の体温を思い出す。
「…悲しいラブソングでござるな」
「え?」
「まるで恋人に永遠の別れを告げるような曲でござる」
やだな万斉、それじゃああたしが今から死にに行くみたいじゃない。そう言おうとした口が開いたまま動かない。何も言い返せなかった。あたしの覚悟を言い当てられたようで。
「…弥生、」
「万斉様、弥生様!」
万斉が何か言おうとしたとこで部下に呼ばれ、後ろに振り返る。すると一台のパトカーが。中にはいつかの3人組と彼の姿。…来た。彼ならば来る予感はしていた。気が引き締められ眉が寄る。そして次第に彼らが呼んだであろう真選組の増援がサイレンを鳴らしぞろぞろとやってくる。
「万斉、白夜叉が来てる」
「…わかった、ヤツは拙者に任せるでござる」
「じゃあ他の真選組はあたしに任せて」
「…気を抜くな、」
「万斉も人の心配ばっかしてたらダメだよ」
黒い制服に身を包む彼の仲間達。きっと白夜叉が呼んだ十四郎派の真選組だろう。彼の本当の仲間。そんな彼らは叫びながら勢いよく向かってくる。計画通りならば今頃来たって近藤さんはもういない。だが列車の様子からしてどうやらそれはなさそうだ。きっと総悟の仕業だろう。彼が黙っているわけがない。さて、あたしも仕事をしなければ。万斉のバイクから降りキッと目付きを変えて前を見据える。
「まァこんな家柄に生まれてきたことを恨むんだな」
憎い、幕府が憎い。今はそれだけを思い斬りかかるよう自分に言い聞かせる。余計なことを思えば剣が鈍ってしまう。
*
ようやく落ち着いて周りの爆発音も聞けるようになった頃、あたしは列車へと目を向ける。近くでは万斉が白夜叉と戦っている。どうやらあたしが彼らのもとに行かなければならないようだ。白夜叉のおかげでどんどん面倒なことになっていく。伊東さんもまだ生きているようだ。あたしの手でとどめをさすしかない。複雑な気持ちとは裏腹に、口元がつり上がる。あたしは彼らがいるであろう車両に歩を進めた。
入ると銃弾でぼろぼろになった車内が目に飛び込んだ。あちらこちらに血が飛び散っている。そこには腕をなくし、血塗れになった伊東さんと、それを支える彼らの姿があった。
「…あらら、またずいぶんとやられましたね」
どうか、冷酷なあたしでいられますように。
「助けて差し上げましょうか?伊東さん」
(20091110)
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