「総悟には会ってかねェのか?」
「うん、まだしばらくは江戸にいるつもりだし、また来る」
「……そうか、」
伊東さんと連絡をとるため、あたしが駆り出された。今回の任務で表立って行動するのは万斉だが、彼は真選組に顔が知られているため、あたしが行くことになった。案の定、彼らと再会することとなってしまった。昔と変わらず彼らは真っ直ぐだった。
「送る、どこまで行きゃあいい?」
「いいよ、こんな時間まで付き合わせちゃったし、仕事に戻って」
「だが…」
「今日はありがとう、またね」
「ったく、相変わらず強引だな」
仕事に戻れと背中を押すあたしに十四郎は少し笑った。最後に気をつけて帰れよ、とまたあたしの頭を撫でて彼は行った。あたしは撫でられた頭に手をやる。どうしよう、昔の感情がまた蘇ってきそうだ。いや、今は少し感傷的になっているだけかもしれない。さっさと帰ろう、そう思い歩き出したときだった。
「まさか君が土方くん達と幼なじみだったとはね」
「……伊東さん、」
振り返ると猫を抱き上げた伊東さんがいた。嫌なタイミングで会った。いや、きっと意図的にあたしに会いに来たのだろう。
「君も意外と冷酷なようだ」
「…意外、ですか?」
「ああ、とても幼なじみを殺すような人には見えない。それとも、彼のためなら幼なじみを殺すのもいとわないと?」
返す言葉も見つからず、喉がぐっとつまる。あたしはそのまま背を向けて屯所を去った。これ以上話していたら、心の底にしまいこんだ本音が出てしまいそうだったから。彼らはいずれ殺さなきゃいけない、殺さなきゃ、いけない。そい言い聞かせるがまだ胸は動揺を隠しきれないようだ。ぐるぐるぐるぐる、何とも言えない感情が渦巻いている。
そのせいか、舟に戻るまでどの道を通ってきたか覚えてない。気がついたときには舟だった。重い足はあたしの部屋へと向かう。今日は早く寝よう。きっと明日にはこんな気持ちなくなってる。そう思い、部屋の戸を開けた。
「よォ、ずいぶん遅かったじゃねェか、確か伊東との約束は午前だったはずだろォ?」
「…し、晋助」
するとそこには窓に背を預けて座り、我が物顔で煙管をふかしてる晋助がいた。確かにここはあたしの部屋だ。でも晋助が自分の部屋のように居座るのはいつものこと。
「で?どこ行ってた」
晋助の右目はいつもより鋭くて、何もかも見透かされそうでつい目をそらした。
「弥生、」
「…幼なじみに、会ったの」
「ほォ、珍しくお前ェの勘があたったじゃねーか」
「……うん、」
こんなことになるなら、真選組なんか行かなければよかった。こんな気持ちになるならば。
「…そのわりに浮かねェ顔してんな」
「……何かもやもやするの」
「………」
「…っ何か苦しいの」
やっぱりまだみんなのことが好きだった。彼のことも好きだった。そんな彼らの大切なものをあたしは壊そうとしている。
「しん…すけ…っ」
「来い、忘れさせてやる」
あたしはどうしたらいいの。
(20091011)
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