――…コト、
長々と持っていた筆を置き、一息つく。手紙なんて書いたのはいつぶりだろうか。記憶をたどり思い浮かんだのは、幼き頃総悟と一緒にイタズラであの人に書いたもの。あれを手紙と言っていいのかはわからないけれど。久々に書いた手紙といっても、届けるつもりはさらさらない、ただあの人への想いが綴られた紙切れにしかすぎない。
「何書いてんだァ?」
「うわ、晋助いたの」
いや、届けれないと言った方が妥当だろうか。今のあたしとあの人では立場が違いすぎる。あたしは鬼兵隊幹部、あの人は真選組副長。でもあたしの存在はまだ真選組には知られていない。今までは晋助の命で、表だった行動をしてこなかったからだ。
「……文か?」
「うん、幼なじみにね」
「幼なじみだァ?何を今さら伝えることがある」
「やだ、野暮なこと聞かないでよ、恋文よ恋文」
「………あァ?」
「すんません冗談っス、だからそんな睨まないで下さい」
晋助と出会ったのは、彼らが武州を去ってしばらくしてからのこと。世界を壊すと言ったこの人に惹かれ、鬼兵隊に入った。あれからどれくらい経つだろうか。今のあたしには少し癪だがこの人がすべて。この命が尽きるまで、着いていこうと決めた人。
「別に届けるつもりなんてないの、ただなんか急に書きたくなっちゃって」
「……ほォ」
「…なんか近々、会いそうな気がするのよね」
それは確信にも似た予感。あたしの勘なんていつもならあてにならないけれど、今回ばかりはあたしも自分の勘を信じている。
晋助はあたしをじっと見たあと、こちらへと歩を進める。何かと思い首を傾げた途端、後頭部から引き寄せられた。それはいつもと同じ深い口付け。不意打ちなキスに頭はついていかない。
「…っん、」
やっと解放されたかと思うと目の前にはあのニヒルな笑み。してやられた。あたしの顔は絶対真っ赤だ。
「っな、ななな…!」
「おら、嬉しがってねェでさっさと行くぞ」
「ど、どこが嬉しがってるのさ!このエロ杉ィィ!!」
今度は腕を掴まれ引き摺られるような形で連れ出された。どこに行くの?と尋ねれば無言の睨みをきかされたので、それ以上は何も言わないことにした。そういえば今朝、どこかに行くと言ってた気がする。眠たくて聞いてなかったけど。
「……よォ、」
「待っていたよ」
たどり着いたのは小さい屋形船。やっと思い出した。そうだ、今日は彼との。
「やあ、君も来ていたのか」
「こないだぶりですね、…伊東さん」
さあ、もうすぐであの計画が始まる。
(20091010)
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