刀を彼らへ向ける。きっと今のあたしはひどい顔をしてるだろう。彼らもあたしにつられてか悲痛な表情だ。しかしあたしが刀を向けいるにも関わらず、彼らはあたしに刀を向けてくるどころか抜く気配もない。あたしが中途半端な気持ちを伝えてしまったからだろうか。
「…弥生、一つ聞いていいか」
「なに、」
「俺達が武州を出たあと何があった?」
ピクリと肩が動いた。あの光景がフラッシュバックする。それがなんとも不愉快で眉をひそめた。黙っていようにも、十四郎の真剣な目にその気も失せた。
「…天人を殺した」
「…な、に」
「両親を殺した天人を殺した」
「!おま、え…」
「ただ、それだけ」
近藤さんの目がさらに悲しみの色に染まったのがわかった。やめて。同情されたいわけじゃないの。別にかわいそうなんて思われたいんじゃない。だからそんな目であたしを見ないで。
「…いい加減、来ないならこっちから行くよ」
「っ何をしている、刀を抜け、殺されたいのか!」
―ガキィン!
伊東さんの言葉で十四郎が素早く刀を抜き、斬りかかってきた。そう、迷っちゃいけないんだよ。あたしを殺さなきゃあたしがみんなを殺してしまうかもしれない。
「トシ!」
「…いくら話し合おうがてめーは敵、そォだろ?」
「わかってるじゃん」
「それならたたっ斬るのみだ!」
十四郎と刀を交わせるのは何年ぶりだろう。昔はよく手合わせをしていた。あの頃と違うのは、これが命のやり取りだということ。
何度か刀を交え、もう一度振りかぶろうとしたとき、大きな爆発音が鳴り響いた。何事かと思い振り返ってみると、一台のヘリが墜落していた。白夜叉の仕業か。でもちょっと待って、確かあのヘリには。
「総員に告ぐ!敵の大将は討ち取った!最早敵は統率を失った烏合の衆!一気に畳み掛けろォォオ!!」
「万斉っ!!」
―チャキ、
万斉の元へ駆けつけようとしたところ、首筋に刀をつきつけられる。ほら万斉、言ったじゃない。人の心配ばっかしてたらダメだって。
「……待て、てめーの相手は俺だろ」
「………、」
「…ずいぶんと仲間想いなんだな」
「当たり前じゃない、仲間なんだもの」
その口調はまるで俺達は仲間じゃないんだなと言っているようだった。何を今さら。ゆっくりと振り返り、十四郎を見据える。
「でも万斉はあれくらいで死なない」
「弥生様、ご指示を!」
「退きなさい」
「は、しかし…」
「退きなさい!」
万斉が白夜叉に破れ、うろたえる鬼兵隊。今のこの状態では上手くいかないことは見えている。万斉が言うノリとタイミングが合わない状態。ならば今は退くしかない。
「ずいぶんなご身分じゃねェか」
「意外?これでも幹部なの」
再び戦闘が始まる。斬って斬って、斬られて斬り返し。あたしも所々から血を流している。十四郎も伊東さんとの戦闘もあり、だいぶ負傷している。
お願いだから、あたしを殺して。
本当は辛い。十四郎の傷ついた姿を見るのも、あたしを斬ろうとする十四郎の目を見るのも。あたしに十四郎を殺すことなんて端からできないのだってわかっている。あたしは首筋に振りおろされる刀を黙って見過ごした。
「…なんで止めなかった」
「何のこと?止めなかったんじゃなくて止めれなかった、昔から十四郎の方が剣術は上手かったじゃない」
「っは、お世辞はよせよ、今のお前はとても全力で戦ってるようには見えねーぜ」
「それは十四郎の方、」
すぐにでも斬られると思い待ち構える。しかし、十四郎はあたしを見つめたままいつまでたっても刀を動かさない。
「何してんの十四郎、あたしを殺さなきゃ」
「………っ、」
「早く、」
「…弥生、」
「早く!」
刀を振るう音がした。そう、これでいい。これでいいんだ。たとえ晋助との約束を守れなくても、彼らを殺せなくて、晋助の足枷にしかならないあたしはここで死ぬべきなの。彼の手によって。
あたしは静かに目を閉じた。しかし、いつまで経ってもあたしの体に斬られた感触はない。
「…っ高杉、」
(20091204)
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