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―プルルルル、プルルルルル



不意にポケットに突っ込んであった携帯が鳴る。その音はいたって普通の着信音。あ、やっべ、勤務中なのにマナーにするの忘れちゃったよ。でもまあ、周りには誰もいないし気にしなくていっか。



―プルルルル、プルルルルル



正直、電話に出るのがとてつもなくめんどくさい。ポケットに手を突っ込む動作さえめんどくさい。ここはいっちょシカトといこうか。



―プルルルル、プルルルルル



…しつこいな、誰だよコンチクショー。これ以上しつこいと局長と同レベルにすっぞコラァ。



―プルルルル、プルルルルル



まじで誰だよ、そう思いやっとのこと取り出した携帯のディスプレイを見ると副長の名前が。うん、確かに土方十四郎って。…おお、まじでか。これはさっさと出ないと後からどやされる。



―プルルルル、プルルルルル
―ピッ



「もしもーし」
『…てめェ遅ーよ、俺がかけたときは3秒以内にとれっつってんだろ』
「んな無茶な」



案の定今とってもどやされた。いやだいやだ、これだから短気なヤローは。あ、副長にヤローとか言っちゃった。ま、いいか副長だし。



『てめェ今絶対心ん中で俺の悪口言ったろ』
「え、すごい副長、大正解!」
『シバくぞ』



相変わらず短気だな。副長ってばあたしが女ということにも関わらず、本気で殴ってくるもんな。結構痛いんだぞアレ。ってもしかしてあたし女に見られてない?まじでか。自分で言ってなんか悲しい。



『その調子じゃ任せた任務も上手くいったみてェだな』
「当たり前じゃないですか、あたしにかかればあんな任務ちょろいもんですよ」
『っは!よく言うぜ』
「伊達に副長の補佐やってきたわけじゃないですから」
『そりゃ頼もしいこった』



その言葉につい笑った。本当にそう思っているんだか。しかしあたしもよくここまで副長の補佐をやってきたものだ。コキ使うし鬼だしマヨだしニコチンだし。特に今でもあのマヨの屈辱は忘れない。あの時ばかりは総悟とともに土方暗殺計画を企てたものだ。でも何だかんだ言って、一番楽しかったのは自分だと思う。



『お前、今どこにいんだ?』
「あー、どこでしょうね?」
『あァ?』
「今から昼寝しようかと思いまして」
『おい、堂々とサボり宣告か』
「だって任務で疲れちゃったんですもん、少しくらいいいじゃないですか」



そんな日々も今日で終わり。お腹に手をあてるとねっとりとした感覚。服には敵のものだか自分のものだかわからない血がたくさん染み込んでいる。あたし、頑張ったよね。あんな人数の攘夷浪士を一人でやったんだもん。あたしは頑張った。でも、寂しいな、悲しいな。もっともっとみんなと、副長と一緒にいたかった。



「あたし、真選組が大好きです」
『急にどうした』
「副長、大好きですよ」



傷口の痛みはもうしない。



『……おい、お前なんで泣いてんだ?』



言われて、初めて生暖かいものが頬をつたっていることに気づく。あぁ、これは涙か。あたし、泣いてるのか。うわ、人前で泣くのなんていつぶりだろう。



『とにかくさっさと屯所に戻って来い』
「…そうしたいのは山々なんですがね」
『どうした?』
「ものすごい睡魔に…襲わ、れて」
『…おい、今どこにいる?』
「もう、眠らな…いと」
『今どこにいる!?』



瞼が重い。少しでも気を抜いたらすぐにでも閉じてしまいそう。そうなる前に、もう一度ちゃんと伝えなきゃ。



「副長、愛してます」
『っ寝るんじゃねェ!俺が行くまで絶対起きとけよ!?』



ついに携帯を持つ力もなくなり、腕がだらんと垂れる。その拍子に携帯も転がり落ちた。今のあたしの姿はなんとも無様だろうと思うとつい笑みがこぼれた。



「おやすみなさい」



地面に転がった携帯から、何度もあたしの名前を呼ぶ副長の声が聞こえる。あたしはその声を聞きながら、ゆっくりと瞼を閉じた。


(20090918)


あきゅろす。
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