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Tales of Graces
どっちもどっち(兄弟)
僕の兄さんは温厚な人柄です。
争いを好む人間でもないので、自分から喧嘩を売るという事はまずありません。

ところが。

「……兄さん………?」
「ただいま。」

素っ気なく挨拶を交わして僕の横を通り抜けた兄さんは、明らかに喧嘩帰りでした。










長旅中の久しぶりの帰省。
ラントの街は魔物の襲撃はあるものの、それ以外は至って平和なものだった。
今のは見間違いだったんだろうか。

「アスベル様!?」

いや、フレデリックが動いたという事は、見間違いではないだろう。
温厚な人柄の兄さんが不機嫌丸出しで帰って来たあげく、顔面を殴られていたのは間違いなく事実らしい。
部屋の前でフレデリックが何やら問い詰めているが、兄さんは素っ気ない返事を返すばかり。
僕は溜息混じりに、仕方なく家を出る。

確か兄さんは「街の様子を見てくるよ」っと散歩に出かけた。
その時は異常もなく、ニコニコ笑っていたというのに。
あの兄さんが怒っているのだから、余程の事があったに違いない。

ふと、ストラタ兵がニヤニヤ僕を見ている事に気が付いた。
僕が見た瞬間、直ぐに顔を引き締めてしまったけれども。

これはレイモンにでも訊いてみよう。

そう思って、彼がいるだろう臨時本部に訪れた。

「レイ……」
「い、いぃ痛いっ!!」

思わず目を瞬いた。
ストラタ兵に絆創膏を貼られているのは、レイモンだった。
しかも顔面中。
兄さんの喧嘩相手は、まさかまさかのレイモンらしかった。
もしかしたらシェリアの事で喧嘩になったのかもしれない。
彼はシェリアに好意を寄せていて、シェリアは兄さんが好きで、兄さんは鈍感。
所謂三角関係の縺れ?
なら、兄さんは喧嘩を吹っ掛けられたのか。
それにしてはレイモンの殴り返され方が酷いものだ。
いくら正当防衛でも、手加減はしないと。

「どうしたんですか、その顔は?」

僕の問いかけに気が付いた兵士達が一斉に敬礼をした。
だけど直ぐに気が付いた。
何故だろう、皆頬が緩んでいる。

「少佐!いたた……」
「また派手にやられましたね。」
「えぇ、貴方のお兄様に!」
「兄さんに何を言ったんですか?」
「知らないです!いきなり殴られたんですから!!」
「はい?」

思わず目を瞬いた僕に、

「いきなりお兄様に殴られたんです!いてて……」

レイモンがそう言った。

あの兄さんが、自分から喧嘩を吹っ掛けた?
天然で、ポケ〜っとしていて、見ているこっちが心配になってしまう、あの兄さんが?
自分から軽くフリーズ状態の僕を、部下の1人が臨時本部の外に連れ出した。

「内緒にして下さいね?実は兄君が殴られる前に、レイモン様が愚痴をおっしゃられていたんです。『少佐は何故私を代理にしないんだ、馬鹿!』っと。」

今に始まった事ではないから、特段驚きはしなかった。

「ちょうどその時、兄君が通りがかられまして。」










「ぐほぅっ!?」

アスベルの見事な右ストレートがレイモンの頬を直撃し、軽く2m程吹っ飛ばした。
流石にこの時ばかりは、ストラタ兵も焦った。

「ヒューバートは馬鹿じゃない!!」
「ぉ、お前は!」
「ヒューバートは俺より努力家で、勉強も沢山して、軍の訓練にも耐えて、指導力もあるんだぞ!!それを馬鹿とは何だ!!」
「くぅ〜!!憎き恋敵!!これが許さ…げふっ!?」

アスベルの2撃目が決まる。

「お前だな!うちの弟を泣かせてきたのは!!」
「何だ、お前こそシェリアさんを泣かせてきたくせに!!」
「オズウェル家の馬鹿野郎!!」
「人の家を侮辱するとは!!」

そして、殴りあいが始まった。












「……っという訳なんです。」

唖然。
素直に唖然。

あの温厚な兄さんを怒らせる原因が、まさか僕にあったとは。

「兄君はいつもニコニコ笑っている方なんで、皆びっくりしていたんですよ。」

僕だって驚きだ。
兵士は去り際に、

「少佐は本当に兄君に愛されていますね。」

…なんて茶化すものだから、思わず穴に入りたい気分だった。
いや、まず一仕事しなければ。

臨時本部に戻った僕はレイモンの前に立って、ニッコリ笑った。

「少佐?」

きょとんとしたレイモンの頬に、

「ぐはぁっ!?」

一発ぶちこんだ。

「すみません、無性に苛立ったものですから。」

明らかに悪いのは兄さんだ。
レイモンの殴りは正当防衛に間違いない。
でも兄さんを殴ったのはやっぱり許せない訳で。

完全にダウンしたレイモンを残して、僕は屋敷に戻った。











兄さんの部屋の前では、相変わらずフレデリックが待機していた。
その手には救急箱。
僕はフレデリックから救急箱を受け取って、

「入りますから。」

強行突破した。
兄さんのギョッとしたような顔が見える。

「ひゅ、ヒューバート!」
「何て顔してるんですか?酷い顔になっていますよ。」

ベッドの上で体育座りしていた兄さんは、慌てて正座するとバツが悪そうにチラチラと僕の表情を伺っている。
まるで親に怒られる前の子供のようだ。
子供の頃はあんなに悪戯をしても、恐縮どころか胸を張っていた記憶しかないのだが。

「あの……ごめん………」
「ストラタとウィンドルの紛争に発展したら、どうするつもりなんですか?」
「ご、ごめんなさい………」

すっかり消沈気味の兄さんに、思わず笑いそうになる。
そっと手を伸ばして頬に触れたら、ビクリと震えたが、声は噛み殺したようだ。

「今回だけですからね?」

僕の手から溢れた光が、兄さんの頬に吸い込まれていく。

「ヒューバート?」

不思議そうな兄さんに、ただ僕は苦笑を浮かべるしかなかった。

絶対に言えない。
兄さんが僕の為に怒ってくれたのが嬉しかった、なんて。
そして僕自身が第2次被害(負傷中のレイモンを殴り飛ばした)を起こした、なんて。

「僕ら兄弟は、どっちもどっちですね。」
「うん?何が?」
「気にしないで下さい。」

すっかり兄さんに甘くなってしまった僕は、ただ苦笑いを返すしかなかった。


《あとがき》
暇があれば更新したいな、もこです。
ラント兄弟ネタは本当にいろいろ浮かぶんですよ。
でも完成(に近いもの)はなかなかできないんです。
途中放棄が多いんでしょうね。

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