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cold sleep 〜弟ver(TOX2/ユー様)
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目を開けた瞬間にルドガーが感じたのは、確かな違和感だった。
頭が酷く重い。
まるで二日酔いのようだが、生憎昨日は酒等飲んでいない。

考える事を放棄しそうになる脳を無理矢理動かして枕元の時計を覗き込み、

「!」

ルドガーは唖然とした。

「昼前……っ!?」

慌てて飛び起きれば目眩に襲われたが、正直そんな事を気にする余裕はなかった。
重い体を引きずるようにリビングへ飛び出すが、当然のこと兄・ユリウスの姿はそこにはない。
ユリウスの出勤時間から3時間も過ぎているのだから、当たり前である。

誰もいないリビングを呆然と見ていたルドガーは、不意にこのダルさに気が付いた。
生前の記憶を頼りにリビングの棚にある箱を見つけると、中から体温計を取り出した。

「38.5度……?」

思わず額に手を当て、ルドガーはソファに体を預けた。

「死んでも風邪引くのか……」

ごもっともな感想だ。
死後の世界で風邪を引くなんて想像した事もなかった。
けれどもよく考えれば雨も降るし、雪も降る。
街の中には病院もあるし、リドウも相変わらず医療エージェントだ。

「死ぬ事はなくても病気はするのか……」

妙なところで感心しながら、ルドガーは熱い息を吐き出した。
重い体を這いながらベッドまで戻ると、ベッド上に放置されたままのGHSを手に取った。
動かない頭を何とか動かし、着信ボタンを押す。
相手は5コール目で出てくれた。

『どうした、ルドガーくん?』

人を小馬鹿にするような口調だったが、ルドガーはホッと息を吐いた。

「リドウ、今、時間大丈夫?」
『相談事なら3分だ。』
「えっと……風邪引いた。」
『おやまぁ。 それで、具体的には?』

不意に口調が真剣なものに変わった。
何だかんだ言いながら、リドウも医者だ。

「熱が38.5度、頭痛い、体ダルい、吐き気はない。」
『ふむ…間違いなく風邪だな。 だが実際診てみないと薬も出せない……歩いて行けそうか?』
「それなんだけど……」

ルドガーは微かに体を起こして息を吐いた。

「兄さんにバレたくないんだ。」
『は?』
「俺がこんな状態で出歩いたら、街の人も気付くだろ? そうしたら兄さんにすぐ連絡されて、兄さんが早退しかねない。」
『間違いなく早退するだろ。』
「だから嫌なんだよ……何とか家まで来れないか?」

しばらく黙りこんだリドウは、電話越しに溜め息を溢した。

『1時間、我慢できそうか?』
「大丈夫……」
『OK、じゃあ1時間後に家に行くから、布団に入って良い子に寝ておくんだぞ。』

プツリとそこで電話が途切れたが、ルドガーはクスクス笑いを溢した。
最近どうもリドウが優しい。
いや、元々根は優しいのだろう。
そうじゃなければルドガーの悩み事等聞いてくれない。

「ねよ……」

ルドガーはベッドに戻ると目を閉じた。





幼少期も今も、ルドガーにとって《風邪》はギカントモンスター級に天敵だ。
何故ならば、風邪を引くと兄の表情にどうしても身がすくんでしまう。

確か最初は兄に引き取られてすぐの頃だ。
慣れない環境のせいか体調を崩したルドガーを見て、兄は眉を寄せていた。
面倒な事をしてくれた。
そんな表情にルドガーは自分はしてはいけない事をしたと理解した。
兄は小さなルドガーを大家さんに預け、ルドガーに言い聞かせた。

「俺は仕事に行くから、良い子にしておくんだぞ。」

本当は一緒にいて欲しかった。
本当は傍にいて欲しかった。

けれど、それは我儘なんだ。
そう理解した幼いルドガーは学校に上がるまで何度か風邪を引いては、そんな事態に遭遇したが、今まで風邪を引いた際に「傍にいて」と言った事は一度もなかった。



けれどある時、兄の表情がまた変わった。
学校で結構な高熱が出た時だ。
担任教師が兄に連絡するというのを、ルドガーは頑なに拒否した。

兄さんはお仕事が忙しい。
自分なら大家さんに面倒見て貰うから大丈夫だ。

そう言ってルドガーは早退した。
正直なところ、歩くのも限界なくらいにフラフラだった。
それでも気合いで自宅前の公園まで辿り着いた。

あと少し。
けれど、そのあと少しが進まない。
足が全く動かなかった。

苦しくて。
辛くて。
寂しくて。
悲しくて。

色々な感情が沸きだして、ルドガーはベンチに座り込んだ。

「おにぃちゃん……っ」

呼んではいけない。
そう理解していても、呼びたくてしかたなかった、その時だ。

「ルドガー!!」

吃驚して顔を上げれば、酷く息を切らした兄がルドガーを見つめていた。
どうやら担任教師が兄に連絡してしまったらしい。
咄嗟に怒られると思い、ルドガーはギュッと目を閉じた。
けれど、ルドガーを包み込んだのは兄の優しい暖かさだった。

「おにぃ、ちゃん……?」
「お前は、どうして……!」

震える兄の声を遠くに、ルドガーの意識はそこでプツリと途切れた。



その晩、朦朧とする意識のルドガーが見た兄は、今にも泣き出しそうな表情だった。
こんな表情をさせているのが自分だと思うと、ルドガーの小さな胸は傷んだ。
その日以降、ルドガーが寝込むと兄は甲斐甲斐しく介抱してくれたけれど、いつも兄は泣き出しそうで、ルドガーはその度に泣きたくなった。

だからだろう。
風邪=兄に迷惑をかける。
そんな方程式が出来上がってしまったのは。








ピチョン

水の跳ねる音に、ルドガーはゆっくりと意識を浮上させた。

「(りどう……?)」

重い瞼を懸命に持ち上げ、ぼんやりした視界にその人物を捉えた瞬間、ルドガーは息を飲んだ。

「にぃ、さん……」

いてほしくて、いてほしくない人物。
兄・ユリウスがそこにいた。
しかもあろうことか塗れタオルを絞って、ルドガーの頭に乗せてくる。

「ルドガー。」

眉を寄せた兄の表情に、ルドガーは胸が傷んだ。
あぁ、また迷惑をかけてしまったんだ。
そう思ったら、ルドガーの意思に反して涙が溢れ始めた。
涙腺が決壊して、止めれそうになかった。

「ルドガー。」
「ごめっ……なさ……っ」

ユリウスはゆっくりとルドガーを起こすと、優しくルドガーを抱き締めた。
そして幼子を宥めるように、優しくルドガーの背を叩く。
その温かさと優しさが、ルドガーには辛かった。

「ルドガー。」

殊更優しい口調で、ユリウスはルドガーに声をかけた。

「言いたい事、全部言ってごらん。」

それはどこか、悪魔の囁きのようだとルドガーは思った。
言えば、兄との関係は崩れてしまう。
言えば、自分が楽になるだけだ。
フルフルと首を振るルドガーに、ユリウスは少しだけ苦笑してみせた。

「お前が何言ったって俺は怒らないよ。嫌いにもならない。」

だから言ってごらん?

決壊した涙腺は、ついにルドガーの内も決壊させてしまった。

風邪引いてごめんなさい。
迷惑かけてごめんなさい。
辛い事を背負わしてごめんなさい。
苦しい思いさせてごめんなさい。
気付いてあげられなくてごめんなさい。
疑ってごめんなさい。
信じれなくてごめんなさい。
傷付けてごめんなさい。
殺してしまってごめんなさい。

内に秘めた言葉が、ルドガーの口から幾つも溢れ出た。
言うべき言葉でないのは分かっていた。
謝っても、それはルドガーが楽になるだけだから。
そして自分はそれが許されない過ちを犯したのだから。
だからずっと、言うつもりはなかった。
なかったのに。

「ごめんな。」
「なん…で……?」

兄が謝る必要なんて欠片もないのに。
未だ涙の溢れるまま見上げたら、ユリウスは優しくルドガーの髪をすいてきた。

「そんな思いをずっと抱えさせて、ごめんな。」
「に、さんが、あやまる、ひつよう、ないっ」
「いいや、あるさ。 こんなになるまで言えなくしたのは、俺だから。」

だからごめんな。
そう言って謝るユリウスに、ルドガーは首を振った。

「にぃさんは、なにも、わるく、ないっ」
「最初から俺が悪いんだよ。お前が風邪を隠したがるようになったのも、元はと言えば俺が最初にお前を邪険に扱ったせいだろう? それに時歪の因子化の事も、俺が話さなかったせいだ。 お前は何にも悪くないんだ。」

それでも納得なんて出来ない。
頑固だなぁ…っとユリウスが苦笑しても、納得なんて出来なかった。

「まぁ、時間は十分あるんだ。これから少しずつ理解すればいいさ。」

そう言って、ユリウスはルドガーをベッドに寝かせた。
存分に泣いて、渦巻いていた感情を吐き出して、再度熱が上がってきたせいか。
ルドガーの意識はぼんやりとしてきた。

「にぃ…さ……」
「大丈夫、ずっと傍にいる。」

ギュッと握り締めてくれた手に、後悔とは違う涙が一粒、ポロリと溢れ落ちた。




《あとがき》
っという訳でルドver、もこです。
このリク内容被ったのでルドverと兄verに分けてます。

っで、ルドverはユー様寄り?のリクなので、ここはユー様宛にお返事を。
こんなサイトを追っかけてくれてありがとうございます。
こんなどうしようもないもこの妄想に付き合って頂けるだけでもこは感謝しています!
さて、シリアスには仕上がったはずですがリク的にはいかがでしょうか?
あんまり兄さんが心配してなさそうな……
もこ的には今の全力は出し切ったんですけれども……
文才の無さは追求しないで貰えると……(汗)

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