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Tales of the Abyss
親心、子知らず(アシュルク+ロー)
カーテンの隙間から差し込む朝日が、瞼の裏を白い闇で覆う。
同時に意識は既に覚醒の段階まで押し上げられていたが、まだ目を開く気にはなれなかった。

ここ数日、公務と書類整理に追われ通しだった。
だから久々の休日を、せめて≪あの≫煩い屑が起こしに来るまでは横になっていてもいいだろう?
そう自分に言い訳をして、光から逃げるように寝返りを打った時だった。

「……ん………?」

隣りに、自分とは違う暖かさを感じた。
鼻をくすぐる匂いは、シャンプーだろうか。

「(また勝手に人のベットに………)」

そう思いながらも、どこかこの暖かさに安心してしまう自分に、内心溜息が漏れる。
少なくとも鮮血と呼ばれた頃には、誰かが隣りで眠るなんて絶対許さなかった。
許すも何も、問答無用。
部屋に入って来た時点で切り捨てる。

「(いつから甘くなっちまったやら………)」

軽く息を吐いて目を開けた。
飛び込んで来たのは鮮やかな朱。
夕焼けを思い出させる朱だ。
いつものようにベットから落として起こさなければならないのか、と苛立ちを眉間に浮かべながら体を起こし、

「……………。」

目を瞬いた。
それからしばらく見つめ、

「……夢…か………?」

何度も目を擦ったが、目の前の光景は同じだった。

チュンチュン

小鳥の囀りと、柔らかな陽射が降り注ぐ中。

「……何ぃぃぃぃ!!!???」

アッシュ・フォン・ファブレ子爵の絶叫が、ファブレ邸に新たな波乱の朝の幕開けを告げた。

















「まぁ、ルーク、可愛いですわvv」
「うむ。」

すっかり親馬鹿モード炸裂中の両親を見ながら、アッシュは深い溜息を吐いた。

目を覚ましてみれば、確かに予想通り己の半身が眠っていた。
………子供の姿で眠っているのは、予想外だったけれども。
見た目は学校に上がるか上がらないか。
少なくともあの半身には体験のない年頃だ。
思わず声を上げると、無論、屋敷中からメイドやら騎士団やらが駆け付けたのだが、流石に事態は飲み込めなかったらしい。
そんな中、お目覚めの小さな半身・ルークは、ぼんやりと周りを見渡してニコリと微笑んだ。
この一撃で数人の使用人達が倒れた。
そして遅れてやって来た公爵夫婦の心を射抜いたのは言うまでもない。

「(だからって母上は仕方ないとして、父上も賛成して朝一に子供服を仕立てさせるか?それって権力の横暴だろ?)」

全くだ。

ゲンナリした様子でアッシュはモーニングコーヒーを口に含む。
そんな彼にはもう1つ悩みがあった。

「(大体何故にメイド服なんだ?)」

それだ。
小さくなったとはいえ、ルークはルーク、変わらず男である。
なのに何故かメイド服を仕立てさせた。
動きやすさよりもファッション性を追求しているのか、フリルを大量に使用している。
その為メイド服というより、白と黒を基調とする子供用のドレスにも見えなくはない。

「ルーク、出来ましたよ。」

最近少しだけ伸びた赤毛は、可愛い白のフリルリボンで2つに結ばれる。

「ウサギちゃんですわ♪」
「うさぎぃ??」

小首を傾げただけで、公爵はあえなくノックアウト。
アッシュのゲンナリ目線に気付いたシュザンヌは、ニコリと微笑んだ。

「わたくし、女の子が生まれたら可愛い服を着せてみたかったのです。」
「……母上、ルークは男なんですけど………?」
「昔、貴方に着て欲しいと言ったのですが、『嫌です』と断られました。」

昔の俺、よく言った!!
内心で涙ぐみながら、アッシュは腕を組む。

「だが、何故小さく………」
「可愛いですけど、ティアさんは残念かしら?」

いや、むしろ手放せないくらいに喜ぶだろう。

「あの鬼畜か、鼻垂れの作った薬でも飲んだのか?」

事態が理解出来ていないのか、ルークはニコニコ笑っているだけ。
そんな公爵ご一家の前に、

ガッシャャン

窓ガラスを突き抜けてやって来たのは、

「ルークの救世主、ローレライ、登場!!」
「またてめぇか!!」

……だった。
何故か冬ソ○のヨ○様の格好をしているところが非常に気になる。

「まさかコイツがこうなったのはてめぇのせいか!?」
「左様、何か問題かね?」
「ありまくりだ!大体なんでマフラーなんぞ………」
「パチンコ冬ソ○2をやっていたら、もう1度シリーズが見たくて、DVDをツ○ヤで借りて来たらハマったのだ。」
「お前は絶対ローレライじゃねぇ!!!偽者だ!!!」

半泣きのアッシュにローさんは少し機嫌を損ねたように眉を寄せた。

「なんだ?この格好に不満か?」
「不満だ!!」
「アッシュもコスプレを……」
「するかっ!!」
「じゃあパチンコ……」
「するかっ!!」
「えぇ〜?」
「えぇ〜?じゃねぇ!!」
「アッシュ、お前も少しは休め。仕事(公務)が終わったら仕事(パチンコ)だぜ!!」
「意味わかんねぇよ!!」

机で泣き出しそうに突っ伏したアッシュから、ローさんはシュザンヌに視線を移し、軽く手を上げた。

「や、ご生母。元気かね?」
「ローレライさん、お久し振りです。元気ですよ。」
「Σ( ̄□ ̄;)」

驚愕の表情を浮かべるアッシュの目の前で、ローさんとシュザンヌはニコニコ微笑んで話す。

「何故か知りませんが、今回はルークを小さくしてくれてありがとうございます。」
「いや、ご生母も喜んでくれて何より。だが残念ながら今日1日限定なんだ。」
「まぁ!そうですの?残念ですわ。」
「私も残念だが、それ以上すると音素が支障をきたすからな。」
「それはいけませんね。」

そんな2人の会話を聞きながら、アッシュはむくりと起き上がる。

「おい、ローレライ?どうしてコイツを小さくした?」
「どうしてって、ルークがそう言ったから。」
「……何?」

見開いた緑の瞳に、ローさんは余裕の微笑みを浮かべて言った。

「昨日、私がいつものようにルークの寝顔を見に来た訳だ。」

今、明らかにおかしな表現があったが、とりあえずスルー。

「だがルークはいなかった!心配になって歩き回ったら、なんとお前の部屋にいたのだ!!」
「……何?」
「『何をしている?』と訊いたら、『アッシュは俺の事、やっぱ嫌いなのかなぁ?』と泣きそうな顔で言われてなぁ。私に目を向けさすチャンスだと思い、『そうだ』と…ぶひゃあっ!?」

アッシュの右ストレートが見事に決まった。

「……てめぇ………」
「冗談だ!落ち着け!!」

もはや音素集合体の威厳さゼロのローさんは、頬を擦りながら続けた。

「『ならアッシュに訊けばいい』と言ったら、『言ったら怒る』と言うから、『じゃあ子供の姿で訊けばいい。アッシュも子供には怒らんだろうから』と進言してやって、こうなったのだ。」

思わず深い溜息を漏らした。

「(お得意の卑屈が原因だったのか………)」

そう思いつつもルークを見れば、ちょっとだけ心配そうな顔でアッシュを見ていた。

「さ、折角ルークも小さくなったんだし、今日はローと遊びに行こうな〜?」
「なっ!?」
「アッシュはお仕事忙しくて遊んでくれないもんなぁ〜?」
「ろーと遊ぶの?」
「ルークの行きたいところに連れて行ってやるぞ〜。」

ローさん、先手必勝。
ルークの手を取った。

「ちょっと待て!!」
「嫉妬とは見苦しいぞ。」
「嫉妬じゃねぇ!!お前みたいな不審者にルークを任せられるか!!俺も行く!!」
「えぇ〜?アッシュは仕事………」
「生憎今日は休みだ!」

急いでローさんからルークを離す様子は、過保護な幼馴染みに負けず劣らずだ。

「ほら、ルーク、行くぞ。」
「おしごとは?」
「今日は休みだからいいんだ。遊びに行くんだろう?」
「うん!!」

一見すれば、不器用な兄貴が年の離れた妹と遊びに出掛けるよう。
それを後ろから見ながら、ローさんは苦笑を浮かべて頷いた。

「私が出る程でもなさそうだ。」
「本当ですね。」

息子達を見ながら、シュザンヌも頷いた。

「だがご生母も確信犯であるな〜。私もこのような利用はユリア以来だ。」
「まぁ、始祖も?」

ふふふと笑いながら、シュザンヌはローさんに言った。

「可愛いあの子の為ですもの。母親であるわたくしが仲を繕うのは当然の事。そして数値上の親である貴方が協力するのも当然でしょう?」
「全くだ。」

ローさんはダテ眼鏡のフレームを上げて息を吐いた。

「親の心、子知らず…だな。」
「…いつか気付くかもしれませんよ?貴方の親心も。」

目を瞬いて、ローさんは照れたように横顔を向けた。

「さて、ルーク達と遊びに出掛けるか。ではな、ご生母!」
「ローレライさんもお元気で。」

片手を上げる様子はとんでもなく気軽そうだが、忘れてはいけない。
彼は泣く子も黙る第7音素の集合体だ。
たとえコスプレしようが、パチンコしようが、立派な集合体だ。

「ルーク〜アッシュ〜♪」
「来るな!!」
「保護者は必要だろう?ルークが変な族に連れていかれないように………」
「てめぇがその変な族だ!!」

ブチ切れ寸前のアッシュにはお構いなし。
ローさんの目にはルークしか写ってない。

「なぁ、ルーク?お馬さんいっぱいのところに行こうなぁ〜?」
「おうま?どうぶつえん?」
「いいや、お馬さんがかけっこするところだ。楽しいぞ〜」
「ホント〜?」
「ガキを競馬なんかに連れて行くんじゃねぇ!!」
「えぇ〜??じゃあ……」
「それ以上言うな!!」



その日からしばらく、街中でブチ切れの子爵様と、冬ソ○のヨ○様のコスプレした謎の男と、フリル満載のメイド服を着た少女の話がバチカルを賑わせたのは、言うまでもない。









≪あとがき≫

今回は『ローさんにだって親心』がテーマです。
決して『ローさんはギャンブラーの巻』ではありません(笑)
この話は「息子は『マ』のつく自由業」のユーちゃんを題材に作ってます。
結局ルー君はどんな服着てたの?っと思う方は1度見てください。

次回はまだ未定です。
なんせ某反逆アニメ2にまたまたハマッてしまったもので……(汗)
もしかしたらそっちも書くかもしれませんね……全く案はありませんけど(笑)

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