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小説




真っ白い壁が続く静かな長い廊下。
時折、空調の音だろうか機械の音が聞こえる…そして少年の啜り泣く声も。


「パパっ。ごめんなさい…どうしよう」

病院の長イスに座る奏は要に支えられ小さな子供の様に泣きじゃくっている。
あれからすぐ、使用人の呼んだ救急車は屋敷につき尚樹は病院へ運ばれた。
奏は尚樹がクッションになり無傷だった。
意識の戻らぬ尚樹の治療を二人で待つ。

「僕が悪いんだ…僕が」


「違うよ奏、事故だったんだよ」

自分を責める奏を落ち着かせようと要は考えれるかぎりの言葉でなだめていた。
看護師が時折、奏に声をかけ様子を伺っている。そんな事もあり中々、泣き止まない奏の気分を変えようと病院の外へ連れ出した。
国道から少し外れた病院…深夜でもあり、とても静かだ。
ベンチに二人して腰かけ空を眺める。まあるい月が出ていて星が点々と輝っている。
泣き疲れたのか奏は赤いまぶたを擦りながらもだんだんと落ち着きをみせてきた。


「プラネタリウムみたいだ」

奏のつぶやきに要は顔を見返す。先程まで自分が見ていた様に空を眺めている。

「本当だね。キレイに星が見える」


外に出たのは久しぶりだったが、空は変わらいと要は思った。


「パパが死んだら、僕は警察に捕まるのかな…」

奏の瞳から涙が一筋こぼれたのを要は拭い首を振った。

「奏、あれは事故だよ。お前だけが悪いんじゃ…」


「捕まればいいんだ。だって僕は悪い子だもん」


慰めの言葉を遮り、奏は続けた。

「わかるんだよ。今じゃなくったって、いつか犯罪を犯すと思う。解ったでしょ?僕は要が好きなんだ…」

奏は真剣な顔をし、目を大きく開けて要を見入った。
急な発言とその眼差しを避けれず要は黙り込む。
奏は動揺しているのを悟ってか要から目を離した。そして下を向く。

「……だけど迷惑なのも解ってる。子供だし、だからずっと隠してようと思ってた」

何も返す言葉がなく、要はうなづく事で相手に返事をする。

「だけどね、僕の中で黒いモノがどんどんと広がって行くんだよ。パパが憎しくて堪らなくなった…いつかはこんな事すると思ってた。だから捕って何も出来なくなってればよかったんだ」

そう言う奏がまた泣き崩れ奏は肩を抱こうとしたが躊躇し手を膝の上に戻す。
ずっと子供とだと思ってた奏の想い…

「ありがとう奏。嬉しいよ…お前の事は大切だけどずっと子供…弟みたいに接して来たから、そんな風には考えられない。だけど聞いて、お前は大切な子だよ…自分を責めちゃダメだ」

正直に答えなくてはいけないと思った。与えてもらった誠意を変えさなくてはと。
その言葉に返事はなく、何かを考えているのか奏は下を向き泣き続けた。



「……解ったよ。ありがとう正直に答えてくれて」

涙を為ながらも奏は笑顔を作り顔を見る。
そしてまた二人して夜空を眺めた。



「今日ねあんな事をしてしまって、僕はパパの事がやっぱり大好きって事が解ったんだ」

沈黙の空間に、奏は急に言葉を出した。無言で二人で見合い同意する。
要にはそれが解っていたずっと流していた涙は自分を守りたい為ではなく相手を心配し後悔の為だと。
――そして、自分の胸の中にも消えてしまっていた感情が蘇る。
情なのかもしれないが、確かにまぎれもない愛に


「ねぇ要は?パパの事好き?」

前にも聞かれた言葉。


強制され言っていた時とは違い本当の気持ちで変えさなければと思う。
だが、何故か口に出来ない。震えながらも動きだす唇は言葉を紡ぎだした。

「好き……だったんだ。だけど色々あって信じれなくなった尚樹を。今考えたら信じれなくなったのは自分自身だったのかもしれない」


言葉に出すと解る。
自分しか愛せない不器用な人間を好きになり、それでも信じようと思った。
だけど疲れ逃げてしまい理由をつけ嫌っていた。

「尚樹は自己中心的な人間だ…人一倍、寂しがりやで怖がりだったからだ。俺にはそれが解っていたのに見捨てたんだ」




二人一緒のベッドの中、夢と現実を行き来する曖昧な時、一人尚樹が呟いていた言葉。
『変わらないものがあればいいのに』と。

小さな頃から尚樹を見ていた。
粗暴な態度をとる事でしか相手を引き付けられない、人は愛が満たされないとマイナスな感情でさえ欲するという。

お互い満たされていた時間…尚樹は感じていた。変わらないモノがそれだったら良かったのにと。
衝動にかられ、自分が悪いと知りながらも繋ぎとめる事が出来ず支配する事で満たされようとしていた。



「…戻ろうか」

要は立ち上がる。
二人してまた待合室で医師が出てくるのを待った。


しばらくし、医師が治療室から出てきた。
要は長椅子に寝転びウトウトしている奏を揺り起こす。


「もう大丈夫です。意識を取り戻されました…足は骨折されてますが、命に別状はありません」


年配の医師はそう言うと手招きをし、奏を呼んだ。真っ赤に腫れた顔をはにかませ安心した表情でついてゆく。
その後ろ姿を見ながら要は立ち止まり考えていた。


――何を話そうかと…




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あきゅろす。
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