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小説
文弥Side…5


塾も終わり片手に本を持ち、俺は家に向かう。二宮金次郎が薪を背負って勉強していたように、学校や塾の教科書の入った思い鞄を背負い。
これが俺の仕事なんだと。

最近は大体、この後は優太と遊ぶのが多いのだけれども、今日は飲み会だそうだ。俺も友達として誘われたが、ああゆう場は苦手だった。
愛想がない俺が行ったって雰囲気を壊してしまうだけだしね。

信号待ちをしていると、見た事のある外車が近寄ってきた。
傍までよると窓を開け手を笑顔で振ってきた。

「久しぶり、タツヤ君」

ブランドのスーツを着て微笑む、20代後半のこの男は昔の常連客。
女顔だが肩幅もあり男らしく女にもモテるだろう。
タツヤは偽名。専門の出会い系で使っていた名前だ。雑誌に載って目についたAV男優の名前。
別にチョコボールでもタカでもなんでもよかったんだけど。

ちなみに優太と付き合うきっかけを作ってくれた、俺が嫌がる事を喜んでする変態。
優太と付き合って尚更思ったが、本当に人は見かけによらないな。

「…久しぶりですね。ご主人様。急いでるんで帰りますね」

俺の偽名がタツヤなら、この男の偽名はご主人様。
よく考えたらこんな怪しい名前を名乗る男によく返信して会ったモノだと俺に感心する。
絶対ヤバい男だろうと今の俺だったら警戒するが…いや、実際ヤバいプレイを好む変態だったけど。
会った時はかなりの男前で驚いたのは確か。
金もそれなりにくれたから嫌でも我慢して常連の客になってたけどさ…。


「待ってよ。偶然会えたんだから、少し話しようよ。後から家まで送るし」

そして俺、どうしてこの男に家を教えたのか…本当、目先の事しか考えない馬鹿なんだよな俺は。

俺はため息をつき、車に乗る。
ただ、話をするだけだ。イザとなったら逃げればいいと。

「最近、連絡取れないから寂しかったよ…僕、君の事気にいってたのに」

俺は窓の外に流れる街の光を見ながら男の声を聞く。

「…辞めたんですよ。バカな事するの」

目も合わせず答える俺。相手は鼻で笑い

「やっと特定の好きな人できたんだ。よかったよ。タツヤ君、さみしがり屋だもんね」

と、俺の事を知った風に言う。
自分で思った事ないんだけどさ。返事もせず俺は何回も乗った事のあるこの車で、ただ外の景色を眺めていた。
変態は海の見える港の公園につき車を停めた。

「ねぇ、タツヤ君の好きなの人さ、あんな事してた事知ってるの?」

あんな事とは身体を売っていた事を言ってるのだろうが…車を停めハンドルに顔をつけ、俺の顔を覗きこみながら聞いてくる。

「ええ」

答えるのも面倒な俺は簡略な返事をする。

「ふーん。じゃあ、好きな人にやってた事をバラすよって脅してもダメなんだよね」

何かを暗に言う男に、嫌気がさし俺は車を出ようとする。
その時、男は俺の手を掴み阻止した。

「待ってよ。ねえ、でも実際さ…ヤってた現場を目で見ちゃったら相当ショックだよね。その子」

「何が言いたいんですか?」

まどろっこしく言う男の手を払うがまた掴まれた俺はその男の言葉を聞く。

「タツヤ君とエッチした映像まだ持ってるんだ。上映会なんかしちゃったら…」

頭で理解するより先に手が出た。いつの間にか俺は男の顔を叩いていた。
叩かれた相手は嬉しそうに笑っている。

「君が悪いんだよ。本当に話だけのつもりだったんだけど…あまりにも可愛いから。ね、最後の一回、思い出をつくらせて」

俺に抱きつき、男は身体をさする。

「もう、脅したりしない。最後に君が我慢すれば終わりなんだよ。黙ってれば終わりなんだから」


目先の事しか考えられない馬鹿な俺でも、優太に対する裏切りだとは解った。だけどそんな俺だから思ったんだ。とりあえず、優太の悲しむ顔とか嫌われたくないって。
自業自得の自分勝手な理由。
うなづきも拒否もしなかったが、俺の顔を見て男は理解したのか頭にキスをし車を進めた。



車に乗せられついたのは会員制のSMホテル。
何回も一緒に入ったこのホテルに俺は嫌な思い出しかない。
相手に手を引かれ部屋に入る。
普通のホテルではお目にかからない特殊なモノが置かれている。

「何か飲む?」

男に声をかけられるが、俺は服を脱ぐ。
早く終わらせて帰りたかった。家にではなく、この男から解放されたいってのが正しいが。
男はそんな気持ちが解るのか笑い、スーツを脱ぎ、ネクタイをとりシャツのボタンを外し胸をはだけさせた姿でベッドに座る。

「まあ、これ飲んでよ」

男はワイングラスに入れた飲み物を差し出す。色からしたらワインだろうが…経験上、他にも何か入れている筈だ。

「また変な薬でも仕込みました?」

かけてあったバスローブを着た俺は男に問う。

「タツヤ君も、少しだけでも気持ちよくなった方が気が紛れるでしょ」

グラスを渡され、俺は一気に飲み干す。考えるのなんて不要だった。中身がなんであろうと、どうせ、嫌がったって脅され、無理矢理に飲まされるのだから。

「シャワー浴びてきますから」

俺が何度も来たこの部屋のバスルームの方へ行こうとすると

「いや、そのままがいい。その方がタツヤ君の味がするからね」

と、くくっと笑いベッドに俺を押し倒し、バスローブを脱がされる。
本当に…人の嫌がる事をするヤツに嫌気がさしていると両手首に小さなタオルを巻き、ベッドにつけられた、金属製の手錠をつけられた。

「大丈夫だよ。暴れても服を着て見える場所には傷がつかない様するから。バレないようにさ」

手が拘束された事で今からこの変態の特殊な性欲はけ口にある諦めがついた。
優太の顔が浮かんだが掻き消した。コイツの前で優太の事は考えたくないと…
眼鏡も外され目があまり見えないのも救いだ。
後はこの変態が今から言わせようとしてる、いつも言ってたアノ言葉をいえば、俺は文弥を忘れてタツヤがやった事として優太には普通に接するんだから。

「…始めるよ。タツヤいつもの言葉をいいなさい」

俺は目を閉じた。後はあの言葉を唱えるだけ。

「ご主人様、タツヤはご主人様の奴隷です。タツヤは悪い子なので罰を与えて下さい」

男は笑った。




飲んだワインの為か、仕込まれた薬の為か身体が熱い。息がもれ熱を逃がす。

ベッドに拘束され寝そべる俺の隣に座り、俺は身体を触る。触られる度、そこが熱くなる。

「っ…あ、ひッ、ああ…」

声を出し悶えるそんな俺の姿を俺の携帯の動画でおさめる。援交してた時、金をもらうかわりに楽しませサービスで声を出してた時とは違う。勝手に声がもれ身体も跳ねる。ああ、力も入らない…頭が朦朧としてる。

「いつみても、キレイな身体してるね。まっ白な肌で…傷をつけたくなる」

男は俺の乳頭を優しく撫でたり、転がしていたが急に引っかいた。

「ッ…ひぃああ」

「タツヤ、お前は誰にでも股を広げる、お行儀の悪い子だからちゃんと躾ないといけない。解るよね?」

「は…はい」

否定なんかしたらどうなるか俺には解っていた。

「…これは淫乱なお前への罰なんだから、痛い事はお前への躾だから」

「はい…ご主人様」

躾か…確かに何回も言わされ俺はこの男の喜ぶ言葉を覚えさせられた。それが勝手に口から出る。

「お利口だね…じゃあ股を開いて」

M字に足を開き、男に見えやすい様に開くとそのままの形で男は黒い革のロープで足を巻き固定した。俺の目の前にイボがたくさんついた、男性器を模ったグロテスクな色をした太いバイブが映るそしてどんどん下にいき、見えなくなった。ただ…穴に異物があたっている感触がし、バイブがある場所の予想はついた。そして次にされる事も…。

「いっ…やああっ、痛いッ…ああッ」

愛撫もろくにされず、準備も出来てない穴に無理矢理に太い異物が捩込まれてくる。
グイグイと乱暴に押し込まれ、穴が裂けるように熱かった。

「この中に何人の男を迎え入れたんだ?痛い目でも合わないと懲りないからね。お前は」

「痛いッ、はッ…やだっ許してぇ…下さ…い。ご主じ…さま」

自由が聞く、首と胴体を振り堪える。
穴から温かい水のが垂れ流れた気がした裂けて血でも出たのだろうか。
少しずつだが太いものが俺の身体に入ってくる。
押し込まれる力が緩んだ。
その瞬間、中のものが暴れだした。

「ひっあッ…んあッ、ひいいいッ」

中でバイブの毒々しい突起が当たる。動く所だけ身体をバタつかせ悶えた。ぼやける視界の中そんな俺を携帯を片手にその様を撮っている男のもやが見える。

「…なんだこれは」

少し意識が遠退いていたが、男の声に現実に戻った。そして俺のモノに激痛が走った。

「がッ…うああああッ」

「罰を与えてるのに、誰が楽しめと言ったんだ。こんなにペニスを立てて…」

俺のモノは男に握りしめられた。爪も当てられ痛い。

「こんなモノをケツに入れられて立たせるなんて淫乱め。先の方もこんなに濡らしてるじゃないか…汚い汁で汚さない様にこれも縛らないとな」

また痛みを覚え、俺は自分の下半身を見る。細い紐で荒っぽくキツク縛られ赤く腫れ上がったモノがあった。

「…はッ、や…だ。キツッ、ひも…といてぇ」

穴の中の動きは痛みが麻痺し、中の気持ちのいい所を擦り快感も感じてきた分、前の膨らみに紐をまかれ圧迫し痛みを伴う。
足の拘束が解かれた。男は俺の髪を掴みうつぶせにした、拘束された手首はクロスされ、立ち上がったモノはベッドにつき痛かった。その為、俺は自然モノがベッドにつかぬ様に尻を高くあげ、男に秘部がまる見えになるような格好をとった。羞恥心より痛みの方がましたんだ。

「こんな格好をして恥ずかしいと思わないのか」

男は怒鳴り、そして尻にも痛みが走る。男は俺の尻を何度も見えないが何かで叩きあげた。衝撃でベッドにモノがつくが、ベッドにつくその痛みでまた同様の格好をする。叩かれた尻が熱くなり感覚もなくなる。時々、バイブにもあたり奥に入り込む。ただパンパンと高い音が耳に届く。


叩く手も止まり、疲れ俺はモノがベッドにつく痛みなど麻痺し、ベッドに倒れる。顔だけ横に向き息を整えながら。

「まあ…一回抜いとくかな」

男の独り言が聞こえた後、俺の目の前に血にまみれたバイブと携帯が投げられ跳ねた。


腰が持ち上げられ、温かい硬いモノが穴に当たる感触がした。
俺は目を閉じその時を待った。穴が裂けた為か、傷口を触られる痛みが走る。お構いなしに体重がかかり、いっきに俺の穴の中は男のモノで埋まった。

「ふっ…ん」

「緩いな…ガバガバじゃないか…」

モノは抜かれたりまた入れられたりを何度もくり返す。

「おい、もっと締め付けろよ。緩すぎて楽しめないだろ?」

髪を思い切りむしられ、痛さのあまり身体に力が入る。

「はッ…」

「痛みを与えたら少しはマシになるか…」

一度抜き、男は俺を元の仰向けに戻した手錠の鎖がガチャガチャと音を立て、ベッドに俺の身体はバウンドした。
拘束された俺のモノがまた空を向いて立ち上がる。そしてすぐ、穴がまた男のものが刺さる。
急な事に目を閉じていたが、目を開けると見えにくい視界には男のもやと、明るい光が見えた。
目を細め見ると男は手にライターを持っていた。

「いや…だ」

腹に刺すような痛みが起きた。

「いッああ」

「ははッ、よく締まるね」

ライターの火が当てられて身体をくねらす俺が面白いのか、男は身体中にカチッと火をつけ跳ねる俺を笑いながら犯す。

「キレイな顔…痛がる君は本当にいい顔してるね」

ライターをなげ、腰を振るのを辞め、男は身体を密着させ口を合わせてきた。
自分のモノが男と俺の間にあたり擦れ痛む。

「この染めてない黒い髪も、バランスの取れた顔立ちも…弱虫の癖に強がっている顔も素敵だよ」

キスを何度もくり返し、独り言をくり返す。
そしてまた腰を振り始め俺の拘束したモノをやっと外された。勢いよく、俺のモノから精液が溢れ、穴からもびくびくと相手のモノが果てた感触がした。少しの間、放心していたが、俺の身体を投げるように男はペニスを抜き拘束していた手錠を外した。

そしてベッド上に座り、精液で汚れたペニスを髪をひっぱりながら俺に銜えさせ、頭を動かす。

「次は何してもらおうかな…そうだ、またセックスの最中に電話でもする?大好きなパパとママに…」

聞きながら俺は夢中で男のペニスをしゃぶる。
何かに集中してないと、コイツの話はいつも胸が痛くなる。

「可哀相だよね…タツヤ君はパパとママ大好きなのにいつも、知らん顔だもんね。電話かけても、忙しいからまた後でって言われるばかりだしさ」

電話…そういえば何度もかけさせられたな。セックスの途中、バレないようにさせるのが楽しかったのか知らないけれど。

「身体を売ってるのだってさ、親にも誰にも相手されなくて寂しくてやってるのに…無理矢理に理由を作って平気な顔を装ってさ」

身体を傷つけられる痛みより、この男の言葉はどうして痛いのだろう。
男はベッドに投げてあった俺の携帯をとり触っている。

「君のアドレスの登録してる名前って面白いよね。『浮気バカ女』がママで、『不倫アホ男』がパパだよね。すぐ、パパとママの素行が解るからいいケド、素直じゃない所が君らしいよ。後は売ってる男のあだ名しか登録してないしさ……ねえ、タツヤ君、優太君って子が彼氏なんだね」

他の事は聞き流せた…いつもそうだ、コイツの性癖に答えるのに夢中になっていれば。
ただ、優太の名前だけは何故か息が止まりそうに痛い。
前まではこんな事なかったのに。

「一人だけ、名前で登録してるなんて解りやすいね本当に君は。シャメでもないかな…」

「や…いやだ、返して下さい…」

男の手から携帯を取ろうと必死に手を伸ばす。
それに腹を立てたのか、みぞおちを殴られた俺はソコを抑えうずくまる。

「あった。へぇ…同じ位の年の子なんだね。君と全然タイプ違うし何処が良かったの?……今日はパパとママじゃなくこの子にかけてみようか電話」

画面を俺に向け、男は笑う。携帯の中の優太は笑っている…息ができないのは叩かれた痛みではない。違うんだ、この痛みは…

「お…願いします。いやだっ優太だけには…やだ…いやだ…怖い…や」

頭の中にいろいろなモノが入ってきて真っ白だ。
いろんな単語だけが頭の中に入る。別に一人でも「怖い」「どうでもいい」「一人は嫌だ」「関係ない」「寂しい」…いろいろな言葉で頭の中が埋めつくされる。

「まただね…君はいつもセックスの最中に泣くんだから…覚えてないんでしょ?忘れてるのだろうけど、セックスしたら安心できるのだろうね。本当の弱い君が出てきて相手に泣いてすがるんだよ。寂しいって…何に関しても強い自分を作り思い込ませすぎて、本来の気持ちとか性格、自分でも解らなくなってるんじゃないの?」

そう言われ、顔を触る。濡れている。泣いてるのか俺……いつもの事…じゃあ、他の男としてた時だって…優太と抱き合った後も同じ様に?俺は泣いてアイツにすがってたのか…
優太がいつも優しく臆病なのは俺の弱さを知った上で気遣い、忘れている俺に対し何事もないふりをして接してくれていた。
頭がぼやける、自分が自分と思えない俺の身体を倒し、男はまた挿入してきた。
頭では何も考えれないが動きに合わせて勝手に声だけがでる。

「ああっ」

「まあ、僕には関係ないけど…ただ、君のその繊細な所、気にいってたんだよ。自分は強い人間だと思い込ませてた所を壊して本来の弱いタツヤ君に戻らせて可愛がりたいって…でも今日で本当に終わりにするから、もっと痛がるその可愛らしい顔見せてね」

男はそう言い、腰を振った。この後はあまり覚えてない。ただ、抵抗せず男の性癖を満たす言葉とか体位に従い特殊なモノに乗せられたりと攻められ続けられたのをなんとなく覚えてるだけ…身体中が痛いのはその為だろうな。

…よく考えたら、セックスの後はいつもそう。あんまり記憶がない…男の言う通りパニックになってたのだろうと今なら理解できた。



明け方、歩けない俺を車に乗せてくれた男は家の近くの公園まで送り車を停め話だした。

「安心して、もう君に本当に会わないから。大事にコレクションしてた、撮った動画とかも削除するし」

「はい」

俺は外の景色を見ながら返事をする。

「今日はちゃんと覚えてるみたいだね…でも、これは覚えてる?君、最後の方ずっと名前を呼んでたよ。優太って。こんな事、前の君ならなかったのに。本当に優太君は特別なんだね」

そう言われ考えるが記憶がない。ただ、ずっと優太の顔は思い浮かべていていた…今日だけじゃない。それは優太と付き合うようになってずっと。

「優太君なら君の寂しい気持ち、解ってくれて強がり知らず知らずに傷ついている君の事を解くれるんだろうね」

「優太…いつも俺に優しくて気づかってくれてました。お前は大切なんだよって…こんな適当な俺なのに」

頬に涙が伝ったのが解った。記憶がある時にないたのはいつぶりだろう…男が言うように、セックスの最中に泣いているなら毎日の様に泣いてたのだろうけど…
そんな事しなくたって涙が伝う。感情の意味なんて解らない。ただ優太の顔だけ浮かぶ。

「あれだけ楽しんじゃった後に俺が言うのも何だけど、優太君と仲良くね。僕もこんな遊び辞めようと思うよ…君がうらやましくなったしね」

涙が止まらない俺の頭をポンと叩いた。
涙が止まると俺は車を降りた。

「君の周りの人は愛してくれなくてそれが寂くて、強がる事で自分を繕ってしまったのだろうけど、彼なら本当の君でも愛してくれるよバイバイ、文弥君」

「さよなら…秀貴さん」

ずっと前…出会った頃から知っていた。財布から見えた免許証のあの人の本当の名前…秀貴さんは笑顔で手を振り帰っていった。
俺の事は…本当の名前はいつから知られていたのだろうか…いや名前だけではなく本当の自分を…

車が見えなくなり俺は重い身体で家に歩く。
誰も迎えてくれる人間の居ないうす暗い家へ…


部屋に帰り服を脱ぎ身体を見る。身体は傷だらけ…本当に見える所だけ傷はない。

俺は考えた。今日の事は自分から望んでした事ではない…ただ、今までしてきた事の報いという事だろうな…
優太はこんな俺をどう思うのだろうか。

内緒に…知らない方が幸せだという事はある。だけどそれは優太と付き合っていたい自分の為だと思った。
だから、今日の出来事を言わなければと思った。優太に嫌われたって…
愛された記憶だけで生きてゆける。あの香りと髪の感触を思い出し一人でもそれだけ優太は愛をくれたんだ。

優太は朝まで飲むと言ってた。携帯を握り俺は着信履歴をだす、俺にかけてくれるのは優太だけ…それもなくなるのかもしれないそう思うと手が震えた。
目をつむりボタンを押した。

「優…太…」

「文弥?どしたのこんな時間に…」

少し呂律の回らない優太の声が聞こえる。
次の言葉は浮かばなかった。

「…今、家だよね。行くから待ってて」

そういい電話は切れ、数十分後、優太は俺の家まで来た。

「文弥…大丈夫?」

笑顔が痛かった…だけど心は穏やかだ。

「優太、今日あった事を聞いてくれる?」

俺は服を脱ぎ身体を見せた。

「お前…どうしたんだよコレ誰にやられたんだ」

…俺は今日あった事を全て語った。


「ソレ本当?今夜、俺が居ないから行った訳じゃないよね?お前、覚えてないんだろうけど…その男にも、何でもしていいから傍に居てとか言ったんじゃないの?」

優太は今まで俺には向けた事のない怒った顔でこちらを見つめる。

「お前知ってる?いつも言ってる事。一人で寝るのは寂しいって…身体を好きにしていいから一緒に寝てって泣きながらお願いしたんじゃないのかよ…俺に言ってたようにさ」

そんな事はなかったけれど言葉が出ない。

「脅されたならどうして俺に言わなかったんだよ…頼りないのか俺は」

優太は壁を思い切り叩いた。

「違うよ…優太に迷惑かけたくなかっただけだよ。嫌われたくなかった…俺の身体なんて別に今更どうでもいいしさ。黙ってればと思ったけれど…優太の顔みてたら…」

「どうしてそうなんだよ…文弥は大切なんだ。他の男達とは違う身体なんか使わなくても、ヤらなくたって、俺はお前が大切なんだから…いい加減解ってよ」

俺は優太の胸に抱きしめられた。酒の臭いがしたが、いつもの香水の匂いがし安心した。

「優太…俺ね、ずっと一人だった。寂しかったかというと…もう自分でも解らないけれど、優太に愛想つかれると思ったら…寂しいって解るんだ」
優太は俺の髪を撫でてくれ、ベッドに寝かせてくれた。そして、優太の方からキスしてくれて俺の上へ乗る…いつも、俺から誘ってばかりで優太からしてくれるのは初めて…
ただその後、優太は苦い顔をし、ベッドから降り俺の髪を撫でた。親が子供を寝かしつける様に。
それで良かった。こんな傷だらけの身体で優太に抱かれたくなかった。
優太は険しい顔してたけど優しい手つきで撫でてくれる。なかなか眠れない俺に「大丈夫だから」と言いながら。
温かい手と香りに安心した俺は夢の世界へと落ちていった。


優太、ありがとう。
今日もゆっくりと眠れそうだ。

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