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小説
文弥side…4



空は快晴。


大型連休も終わり初登校の日。


朝の天気予報では日中25度をこすので注意との事だったが、確かにそのくらいあるのだろう。
額に薄くかいた汗を手でぬぐった。

昼休み後の体育は外で体力テスト。
朝、寒かったので長袖の体操服を着ていた俺は袖をまくりグラウンドのど真ん中、100メートルを走るクラスメイトを目で追いかけ自分の順番を待っていた。
先ほどまで50メートル、幅跳び、ソフトボール投げ等をしたので体力のない俺は暑さもありバテていた。
空を見上げてため息をついた。


「大丈夫?」


前に並んでいた琴乃は振り返り爽やかな笑顔を見せた。



「えっ?」


「なんだか体調が悪そう」


「ああ、大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ」


「無理しないでね」


そう言うと琴乃はスタートラインについた。
スラッと背の高い男は背伸びをして肩を回すと地面に手をつくと腰を上げた。
そして、教師の掛け声と共に駆け出した。
真っ直ぐ走り抜け琴乃は3人をぬき一番にゴールをくぐった。

ゴールの向こうでは同じく終わった生徒と肩を組み合わせ話を始めていた。
今日、また実感した。
琴乃はスポーツもできる。体力テストをするのをずっと側で見ていたんだけど好成績を残している。


こいつは女にモテる。

そりゃそうだろう。
容姿はいい。
かと言って気取らない。
優しく、面白い。
クラスの奴ともすぐ打ち解けていた。
そしてスポーツはこうしてできる。


世の中にはこんな恵まれた人間もいるのだと知った。



俺はスポーツは…。




一緒に走った3人の背中をみながらゴールをくぐった。





体育の時間が終わり、更衣室へ入った。
汗をかきシャワーを浴びたい気分だがそうもいかない。
次の時間で授業も終わり、しかも好きな数学。俺は急いで着替え静かな教室へ帰ろうと上半身を脱いだ。
そこへ騒がしい話し声が聞こえてきた。


ぎゃははという楽しそうな笑いは更衣室の中に入ってきた。



「おお、小野!久しぶり」


前髪を結んだ高島が俺を見てにこやかに言う。その後ろには橋本。「よっ」と片手を上げて挨拶してくれた。
こいつらとはクラスが変わって顔を合わせる事が少なってしまったが、会うとこうして声をかけてくれていた。


「次は体育?」


「そーだよ。寝みー時間にさ」


「暑かっただろ?」


二人と話しているとその後ろから、これまた賑やかな笑い声が聞こえてきた。
シルバーの髪をゆらゆらと揺らす男は琴乃と肩を組みはしゃいでいた。
最初は俺が見えなかったようだが琴乃が「はい」と濡れたタオルを手渡してくれた時に目が合う。
情けない事に上半身裸の俺。
「ありがとう」と受け取り顔を拭き火照った熱を冷ます。



「ユウ、文弥って体調悪そうだと思わない?」



琴乃に言われやっと俺の顔を真っ正面から見る優太。
顔は少し赤らんでいた。




「少し…顔が赤いかな」




優太に言われてロッカーの鏡を見た。
もちろん優太と違い照れて赤い訳じゃない。そういえばさっきから頭がボーッとする。



「疲れただけだよ。後、1限だし大丈夫…」



と服を羽織ると視界がグラリと歪んだ。
ああ、予想以上に体調が悪いみたいだ。フラりと倒れ込む…。



ボーッとする頭と体で薄目を開けると自分が優太の胸の中にいるのがわかった。



「おいっ大丈夫!?文弥!」



顔を叩かれ大きく目を開ける。
周りには橋本達の他に数名クラスメイトが覗きこんでいた。



「大丈夫だって…少し暑かったから。次の時間に遅れるしもう、大丈夫…」



たくさんの人に注目され恥ずかしく、早く起き上がろうとするがダメだった。



「保健室に行こう。俺、連れてくよ」



そう言われ優太に肩を抱えられる。
ほんとに情けないんだけどここまでくると諦めた。
優太に身を任せ重い足を動かす。


だけど、もう一方の肩を引かれ優太から離れてしまう…。
引かれた胸から見上げると琴乃がピタリと俺の腰を支えていた。



「僕が連れて行くよ」



にこやかに微笑まれ「行こう」と言われると何故か拒否できず、なされるがまま頷いてしまった。
優太に目をやると…口をとがらせていた。
優太は「じゃあ俺が片方を支えるよ」と言うがすかさず琴乃は「体力テストをサボったら赤点だよ」と手で追い払った。





……そして。







「ね、文弥。僕と一緒の方がいいよね?」








と琴乃は言った。





変な意味合いはないんだけど…




ここで拒否でもして優太の方がいいです。なんて言ったらおかしいだろ?
しかも、優太は体育以外は点数厳しいんだからここぞとばかり点を取って欲しい。
優太だってそれはわかっているはず。






「門脇君は授業に出て…。琴乃に連れて行ってもらうから」





頭もボーッとするし早く涼しい部屋で寝たい。
俺はもう優太の顔色を見る間もなく琴乃に連れられ更衣室を出た。





数学…多項式と単公式…授業に出たかったな。
保健室に行くとベッドに吸い込まれるように横になり目を閉じた。











夢を見ていた。


保健室のベッドに寝ていると琴乃がニコニコと笑い俺の顔を覗きこんでいた。
そして指先で唇をつつかれる。
指先は琴乃自身の口元にもっていきチュと音を立て間接キスをした。




「ユウ、寂しそうな顔してたよ」




琴乃は普段見せたことのない意地の悪い笑顔で言う。




「……。優太はわかってくれるよ」



そう言い返す。と琴乃は「ふーん」とまた笑う。



「お互いに信頼しあってるわけだ」



バカにされた口調に夢ながら腹がたち「そうだよ」と言う。




「僕、大好きだよ。そーゆー関係をぶち壊すの…大好きな人には特に意地悪したくなるんだ」




酷い発言とは違い穏やかな笑顔。
「キスしていい?」とふざける男にいやけがさし、悪い夢だ早く醒めてくれ。と目を閉じる。








どうしてこんな夢を見たんだろう?
最近、優太と琴乃の仲の良さに焼きもちをやいたから?






とりあえず、目が醒めたら優太に会いに行こう。
心配してくれてると思うから…。
俺もあいつの綺麗な髪を触りながら安心したい…。




チャイムがなり、ハッと目が醒める。
とっさに時計を見ると5時だ。長い時間寝たものだと身体を起こすと優太がベッド横の椅子に座っていた。


「体調どう?軽い熱中症だってさ」


ペットボトルに入ったスポーツドリンクを手渡され受けとる。
優太の話では橋本と高島もさっきまで保健室に来てくれていたらしい。


ベッドに腰かけ飲み。口腔を潤した。





「ありがとう。もう帰れるよ。塾に遅れるし」


「何行ってるんだよ。今日は休め!」


「授業も休んで塾まで休んだら…」


「いや!ダメだ!せんせーだって心配してたぞ。細すぎで飯食ってんのかって!」


優太に言われ黙り込む。
最近、まともにご飯を食べてない。
勉強に熱中しすぎるのかもしれない。



「身体を壊したら受験どころじゃないだろ!」



最もな事を言われ、言う通りに今日は休む決心をした。
「わかったよ」と言うと優太は笑い頭を叩く。
だけどすぐ顔色が変わった。




「今、琴乃が荷物を取りに行ってる。家の人が車で送ってくれるってさ」





そういうと椅子の上に置いてたスマホとかを鞄にしまい帰り支度をしている。


「俺、優太と帰るよ」


「せっかくだから甘えろよ。俺はチャリだし」


口元だけ笑い少し寂しそうな顔に「もう大丈夫だから…一緒に」と言うが優太は「ダメだ」と言う。



情けない。
人に迷惑をかけて、体力テストの結果はぼろぼろ。唯一の得意な勉強ですら休んでしまった。
最悪だとうつむく。



その時…きらきら光る髪の毛が額をくすぐり、いい香りが鼻に届く。目の前近くに優太の真顔。




柔らかい唇が重ねられた。



「心配させんなよ」







唇はすぐ離れてしまい寂しさを感じたが、優太の優しさに胸がいっぱいだ。






その後、迎えが来たと琴乃に呼ばれ保健室を出る。


もう大丈夫。
今日、体調を整えて明日からまた頑張ろう。




…何か考えなきゃいけない事があった気がするが……まあそれより早く寝よう。








































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あきゅろす。
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