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小説




月末も近くなった月曜日。一週間後が給料という事で『ヨハンセン記者クラブ』の職場の中は何となくだらけた空気が漂う。給料まで何日後に給料だと考えながら財布と相談する日が増してきた。
言葉数少なく、仕事をこなしていた。




「レオンさんっレオンさん!スクープ取ってきましたよッ!!…あれ?」



バンッとドアが開きジムの大きな元気な声が響いた。しかし席には本人は座っておらず首を傾げた。


「編集長は外出中」


タイプライターから目をそらさずビルがぽつりと言うと


「今日は隣街に取材と他の編集部に挨拶周り。で銀行に行ったりするって言ってたから当分は帰れないよ」


とジャックが、にこやかに言った。
悔しげに舌打ちをしながらもすぐ笑顔に戻ったジムはカバンから書類を出しながらビルの机に撒いた。


「じゃあ、ビルさん!これを打ってよッ!!スクープなんだ。レオンさんが帰って来て許可が下りたら売り込みに行くから!」


ビルはやれやれと椅子を引き読み始めた。だが次第に険しい顔になる。
そして…


「レオン編集長、どう思う?」


とロッドに書類を渡すとタイプライターに目を移した、ジムは首を傾げながらも回された書類の後を追いロッドの真後ろにつく。



「んー…不許可だジム。調べ直してきな」


暫し書類を眺めた後、ロッドは誰かの台詞回しで書類を突っ返した。



「なんでです!?」


「ジム…俺達が押さえたい記事は、この政治家の疑わしい不正行為な訳だから。お前が取ってきた記事は確かに話題性はあるが余りにも不明確すぎるよ」



ジムが取ってきた記事は今、追っている政治家の疑惑を第三者の証言を元に赤裸々に書いていた。
民衆の注目を集めている話題ではあったから表に出すといい反応は返ってくるのだろう。ただ、まだ証拠や根拠も曖昧な記事ではあった。




「編集長の事をよく知ってるロッドがダメって言うんだから許可が下りるはずないよ。ビルに無駄骨を折らせちゃだよだよ」



ジャックは優しい口調でジムに諭した。
何度も、何度も同じ経験をしているジムは諦めたのかなだれ込む様にデスクにつくと頭を抱えだした。



「ロッドさんの写真技術は最高でビルさんも一流のタイピスト。ジャックさんの情報網もすげーし、レオンさんなんてあの若さで独立してさ…欲を出せばもっと、もっと稼げる筈なのに」



そう、記者という仕事ながらレオンのモットーは『自分の心に聞いて響く仕事をしろ』だった。人を傷つける中傷や有りもしない出来事をでっちあげたりと汚い仕事は嫌い真実を求めていた。



「ぐずぐす言わないの。俺達はレオンが好きで此処にいるんだから」


ジャックはジムの肩を叩き宥める。


「まあ…年下のレオンに最初はムカつきもしたよ。あいつに『俺が気に入らないなら出てけ』と言われて何度ケンカしたか」


ビルがそう言いながら椅子にのけ反り背伸びをすると


「だけど皆、レオンの事を認めてて大好きな訳」


ロッドが続けてケラケラと笑う。ジムは遠くを見ながらつまらないという顔をしていたが、椅子を抱きしめて上を向く。


「解ってるんですけど…レオンさん、疲れないかなって。自分にも他人にも厳しい人だから、正しさを求め続けるし。みんなより人一倍に仕事をして、此処を守って。で…最近はルイの子守りとか色んなものに終われてさ。少し位、楽になればいいのになって」



ジムの言葉を聞き、みんなはため息まじりで納得をした。


ただロッドだけ遠い目で答えた。胸に手を当て目をつむる。


「レオンはアンリの言葉を守ってるんだよ。自分の『此処』が言ってる事が大切だって…だから俺達が心配しなくてもレオンは大丈夫なんだよ。自分に正直に生きてるんだから」



目を細め、にこやかに言うロッド。
ジムも納得し仲間達と思い出話をしだした。
本人は居ないが話題はつきないもので、嬉々と話をする職場はまた賑やかになっていった。






その夜、レオンは自宅の部屋にてデスクにつきノートを見ながらブツブツと呟いていた。



「…家賃と光熱費と接待等の交際費だろ……それでアイツらの給料と…ルイの学費が…」


顔をしかめて、銀行の通知やデスクに置かれた現金を数える。
時々、頭を掻いては舌打ちをしていた。


「何とか…今月は黒になりそうだな」


と、独り言を言いながらにやける。






「勉強をしてるの?」


一人でいたと思っていた部屋の中、急に聞こえた声に驚いたレオン。


「ルイ!?…いつの間に。人の部屋に入る時はノックしなさいって言っただろ…」


「何度もしたケド……レオンの返事がなくて。ごめんなさい」


ルイの切なそうな顔にレオンは仕方ないとばかりに黙り込む。ルイも安心し「算数?」「黒ってなに?」と質問責めを始めた。
昼間に学校に行き出してから二人きりの時間が減った分、ルイが寝るまでの時間をレオンは大切にしていた。そして、一人で気楽ながらも寂しい生活から、こうして大変ながらも可愛い存在との共同生活は活力へとなっていく。


「まあ…今、大事な計算をしてるから少し待ちなさい」



レオンに言われルイはニコニコとベッドにちょこんと座り足をばたつかせ、『おあずけ』された犬のように待っていた。
気を取られつつ、またレオンは数を唱えながら計算をしていった。






「お待たせ」


区切りがついたのかレオンは振りかえった。そこには先程までしっぽを降りながらお利口にしていた存在はない。ルイは布団もかけずに自分の寝床に横たわり寝息を立てていた。


「寝るなら自分のベッドに寝なさい」


優しく身体を揺するがルイは「ん…や眠たい」と身体を丸めた。



こうなるとレオンは弱い。



ルイに布団をかけると自分もベッドに腰掛けた。


「ったく…お前は…」


甘やかしてはいけないと思いつつ、どうしてルイにだけは自分に厳しく出来ず言葉を濁す。


「気持ち良さそうな寝顔だ…俺まで眠くなるよ」


あくびをし、時計を見たレオンはルイの隣に寝転んだ。



「今日は早く寝て…仕事の続きは明日、早く起きてするか」




誰にだって弱さがある。レオンにとってルイは弱い所であり自分を強くさせるものだ。



ルイだけに見せるレオンの顔…職場の仲間に見せるとどう思うのかは知らないが、レオンはただ幸せそうにルイの横で眠りについた。



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あきゅろす。
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